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本研究の目的は、消費者が製品に対して正と負の評価を同時にもつ両価的態度を単価的態度へと解消していく情報処理プロセスにおける情報探索・処理の方向性を消費者の制御焦点によって説明する理論枠組みを構築することにより、同研究課題に関する先行研究の理論的課題を解決するとともに、対象製品の選択回避へと影響する両価的態度を効果的に解消させるためのマーケティング活動に対して有用な示唆を示すことを試みることである。
第1章では、本研究の背景と目的を示した。一般的に、人がある対象に対して形成する態度は、正もしくは負の評価のいずれか一方である単価的態度が仮定されているが、時に、正と負の評価を同時にもつ両価的態度を形成することもまた指摘されている。また、対象に対して両価的態度が形成されると、態度と行動の一貫性の低下、態度対象の選択回避、そして、両価的態度の解消に向けた情報処理の促進など人の意思決定過程や行動に対して様々な影響が及ぼされることが社会心理学を中心に指摘されてきた。これらの影響は消費者行動研究においても注目すべきものと考えられる。特に、製品に対して両価的態度が形成された場合、その解消に向けた情報処理の結果、両価的態度が解消されるか否かは、消費者が当該製品を選択・購買する可能性に影響する重要な点と考えられる。そこで、本研究では消費者が製品に対する両価的態度を単価的態度へと解消していく一連の情報処理プロセスに注目し、同プロセスにおいて、いかなる情報が探索・処理される傾向にあるのかという情報探索・処理の方向性を先行研究とは異なる新たなアプローチにより明らかにすることを中心となる研究課題とした。
第2章では、依拠する研究アプローチ、消費者の購買意思決定過程との関連における本研究の位置づけ、および、対象とする消費者行動の範囲を示した。研究アプローチとしては、本研究の目的が製品に対する両価的態度の解消に向けた消費者の心理的プロセスの解明であることから、消費者情報処理理論に依拠することを示した。次に、本研究の位置づけについては、まず近年の消費者を取り巻く情報環境の変化により、以前にも増して消費者は製品評価の際に両価的態度を形成しやすくなっている可能性があるという問題意識を述べたうえで、本研究は、外的影響要因としての消費者の情報取得における状況が、製品に対する両価的態度を形成させる結果、消費者の代替案評価や選択・購買に影響が及ぼされるという現象を扱うものとして位置づけられることを示した。さらに、本研究が対象とする消費者行動の範囲は、製品に対する両価的態度が形成される可能性が高いと考えられる関与水準が高く、かつ、代替案評価過程の後半段階における消費者行動であることを示した。
第3章では、主に社会心理学における態度の両価性に関する先行研究のレビューを行った。はじめに態度の両価性に関する研究の系譜を概観したうえで、これまでに提唱されてきた異なる両価性概念の各概念的な特性、および、態度の両価性と態度強度との関係を整理することにより、概念的な位置づけを明確化した。次に、態度の両価性の測定、態度の両価性の先行要因と影響に関する先行研究を整理した。その後、本研究の研究課題である両価的態度の解消に向けた情報処理に関する先行研究を整理した。
第4章では、まず両価的態度の解消に向けた情報処理プロセスにおける情報処理の方向性を説明した先行研究の理論枠組みにおける課題を指摘した。すなわち、先行研究では、その情報処理を対象に対する既存態度によって説明する枠組みが示されてきたが、このような枠組みでは対象に対する正と負の評価の水準が等しい場合においては、その情報処理の方向性を説明できないと考えられる。また、対象の選択回避へと結びつく両価的態度は、マーケティング活動を通じて単価的態度へと解消させるべき対象と捉えられるが、先行研究の枠組みは、このような実務的な課題に対して有用な示唆を与えうるものではないことも指摘した。そこで、本研究ではこれらの課題を解決するべく、新たなアプローチとして制御焦点理論(Higgins1997)を援用して、上記研究課題の解明を試みた。具体的には次の3つの研究課題を設定した。第1には、製品に対する両価的態度の解消に向けた情報探索の方向性とその程度に対して消費者の制御焦点がいかなる影響を与えるのかを明らかにすることである。第2には、製品に対する両価的態度を形成させる先行要因となる情報に含まれるコンフリクト・タイプの違いに注目し、異なるコンフリクト・タイプを示す情報が消費者の制御焦点の強度に対して異なる影響を及ぼす関係について明らかにすることである。第3には、マーケティング活動を通じた情報提示による両価性の解消効果に対して、その受け手である消費者の制御焦点が及ぼす影響について明らかにすることである。
第5章では、各研究課題について理論枠組みの構築と仮説の導出を行った。第1の研究課題については、製品の正と負の各側面に対する情報探索意欲に対して消費者の制御焦点がいかに影響するのかを検討した結果、製品に対する両価的態度の解消に向けた情報探索において、消費者の促進焦点が強いほど製品の正の側面に関する情報に対して探索意欲が高まり(仮説1-1)、消費者の予防焦点が強いほど製品の負の側面に関する情報に対して探索意欲が高まる(仮説1-2)という関係が仮説として導出された。第2の研究課題については、製品に対する両価的態度を形成させる情報に含まれるコンフリクト・タイプの違いを理想的属性と義務的属性という2つの属性タイプにより4つに識別し、各コンフリクト・タイプを示す情報が消費者の制御焦点の強度に対して与える影響を検討した。その結果、理想的属性(正)-理想的属性(負)間のコンフリクトを示す情報は消費者の促進焦点を強めること(仮説2-1)、義務的属性(正)-義務的属性(負)間のコンフリクトを示す情報は消費者の予防焦点を強めること(仮説2-2)、理想的属性(正)-義務的属性(負)間のコンフリクトを示す情報は消費者の予防焦点を強めること(仮説2-3)、義務的属性(正)-理想的属性(負)間のコンフリクトを示す情報は消費者のいずれの制御焦点の強度に対しても有意な変化を与えないこと(仮説2-4)、以上4つの関係が仮説として導出された。第3の研究課題については、消費者の製品に対する両価的態度の解消を促進させうる情報提示として、製品の正の側面を強化する情報提示と負の側面を払拭する情報提示の2パターンを識別したうえで、それらの情報提示による両価性の解消効果が、受け手である消費者の制御焦点の違いによって変化する可能性について検討した。その結果、消費者の製品に対する両価的態度の解消を目的とした「製品の正の側面を強化する情報」の提示による両価性の解消効果は、促進焦点の消費者の方が、予防焦点の消費者よりも大きいこと(仮説3-1)、「製品の負の側面を払拭する情報」の提示による両価性の解消効果は、予防焦点の消費者の方が、促進焦点の消費者よりも大きいこと(仮説3-2)、以上2つの関係が仮説として導出された。
第6章では、前章において導出された仮説の経験的妥当性の検証が行われた。経験的テストの結果、第1の研究課題については、仮説1-1、1-2はともに支持され、消費者の制御焦点は、製品に対する両価的態度の解消に向けた情報探索の方向性とその程度に影響する要因になることが確認された。第2の研究課題については、仮説2-1、2-3、2-4が支持され、製品に対する両価的態度を形成させる先行要因となる情報に含まれるコンフリクト・タイプの違いが、消費者の制御焦点の強度に対して異なる影響を与えることが概ね確認された。第3の研究課題については、仮説3-2のみが支持され、製品に対する両価的態度の解消を促すための情報提示による両価性の解消効果は、消費者の制御焦点の違いによって変化するという関係は部分的に確認された。
第7章では、本研究の貢献および今後の課題を示した。本研究では製品に対する両価的態度の解消に向けた情報処理プロセスにおける情報探索・処理の方向性を消費者の制御焦点という新たなアプローチにより説明することを試み、先行研究の理論的課題を解決するとともに、製品に対する両価的態度を効果的に解消させるためのマーケティング活動に対して具体的な示唆を示しうる理論枠組みを提示できた。しかしながら、研究の限界、及びそれに伴う課題も残されており、今後はそれらの課題の解決を通じて、態度の両価性が消費者行動に与える影響をより包括的な視点から説明できる理論枠組みの構築が求められることを結びにおいて述べている。
本研究は、消費者情報処理研究の重要課題の一つである、考慮集合形成の各段階における意思決定のあり方を説明すべく、情報処理アプローチに依拠して、消費者の内的要因である購買関与度と製品判断力に注目し、理論枠組みの構築を試みたものである。
情報処理アプローチは、消費者を積極的情報処理者として捉え、消費者の認知的側面に注目し、とりわけ、消費者がどのブランドを、なぜ、いかにして選択したのかを説明対象とする。そこでは、消費者の情報処理能力の限界が想定され、情報処理能力の違いゆえに消費者間で意思決定も異なると考えられている。こうした情報処理アプローチの特性を踏まえ、本論文では、消費者を、限定合理性を有する意思決定主体と捉え、消費者が最終的な購買ブランドにたどり着くメカニズムを明らかにすることを研究課題としている。消費者は選択肢をどのように評価し、絞り込んでいくのかという、考慮集合形成過程と意思決定ルールの関係に焦点を当てたものである。
意思決定にさいしては、決定課題に関する情報が同じであっても、決定方略が異なれば、各選択肢の評価や選択結果が大きく異なることがある。本論文では、種々の決定方略を補償型と非補償型に分類するとともに、これまでの研究では、意思決定の段階に応じて補償型と非補償型の決定方略が段階別に混合して用いられていると考えられてきたが、どの段階でどの決定方略が用いられているかに関しては、十分な解明がなされてこなかったことを指摘し、段階別の意思決定ルールを整理することを試みている。
消費者意思決定に影響を与える要因としては、本論文においては、多様性を整理し説明するための枠組みとして最も有望な構成概念は、内的要因である購買関与度と製品判断力であるとし、決定方略と、規定要因としての購買関与度と製品判断力との関連付けを、理論枠組みという形で提示している。
こうした作業のうえで、理論枠組みより導かれたのが、以下の三つの理論仮説である。
仮説 1 : 購買関与度が高くなるほど、考慮集合からの選択において、補償型ルールへの依存度が高まる。
仮説 2 : 製品判断力が高くなるほど、考慮集合からの選択において、補償型ルールへの依存度が高まる。
仮説 3 : 購買関与度と製品判断力が共に高くなるほど、より早い段階からの補償型ルールへの依存度が高まる。
仮説の検証にあたっては、薄型テレビを対象に取り上げた。まず、薄型テレビの購入を考えている消費者に対して、アンケート調査を行い、購買関与度や製品判断力などの個人属性を把握したうえで、消費者が薄型テレビを購入するさい、考慮集合形成過程の各段階においていかなる意思決定ルールを用いたかに関して、言語プロトコル法による調査を行い、さらに、半構造化した面接調査を行った。
これらの結果、理論分析から導かれた仮説1、仮説2、仮説3はすべて支持された。しかし、理論分析では想定されていなかった、別の意思決定の流れも識別された。それは、高購買関与度・低製品判断力の消費者において、第1段階(処理集合形成段階)において非補償型、第2段階(考慮集合形成段階)において補償型、第3段階(考慮集合からの選択段階)において非補償型ルールを用いるというものであり、この結果についての検討・分析をもとに修正仮説を提示した。
加えて、デジタルカメラを対象として、同様の調査を行った。分析の結果、理論分析から導出された仮説1、仮説2、仮説3は、薄型テレビと同様にすべて支持された。また、薄型テレビで導出された追加仮説も支持された。さらに、ここでは高購買関与度・高製品判断力の消費者において、第1段階(処理集合形成段階)において非補償型、第2段階(考慮集合形成段階)において非補償型、第3段階(考慮集合からの選択段階)において補償型ルールを用いるという、新たな流れを見いだした。これは、足りない部分を埋めるべき隙間が、第2段階においてある種の「非補償型ルール」を生み出した、つまりコレクションの隙間を埋めるというマニア型の購買行動と考えられ、それを勘案した形で、さらなる修正仮説を提示した。
新製品の普及モデルは、マーケティングにおける新製品普及現象の動態を捉え、その需要を予測する目的で用いられてきた。この目的を達成するため、従来、普及モデル研究においてはマーケティングミックス変数の導入によってモデルの精緻化を進め、新製品普及の動態を正確に理解することの重要性が繰り返し強調されてきた。特に、近年の製品ライフサイクル短縮化に伴い、一部製品において急激な普及速度の増加といった現象が観測されていることに関連して、マーケティングミックス変数の導入とそのコントロールの重要性が強く主張されてきた。
しかし、新製品の普及を記述、予測する際に、従来の枠組みとモデルの延長線上で改善を図るだけではなく、消費者の個人特性にまで立ち戻って理論モデルの構築を図る必要があると考えられる。これまでの新製品普及モデルは、いずれも説明項である成員の特性や成員の構造に関して均質性を仮定したうえで、現実には異質な環境下での新製品の普及についてモデル化を行ってきた。すなわち、消費者個人についても、その消費者を取り巻く環境についても均質であるという前提が存在しているのである。
そこで、本研究においては、成員の特性に異質性を導入し、個々に異なる特性を持つ消費者が様々なネットワーク構造上でどの様な新製品の普及過程を描くのかという問題を観測することを意図してモデルの構築と分析を行った。この様な条件を取り入れることにより普及モデルにどの様な影響が及ぶかを検証し、最適な普及モデルの探索、並びにそれらの説明項の異質性が普及現象記述の帰結に与える影響の大きさを特定しようとするものである。
そこで、新製品の普及過程を記述するにあたり着目すべき2つの点を挙げた。1つは消費者個人の特性としての採用に関する「閾値」が新製品の普及過程に与える影響であり、もう1つは、消費者個人が属するネットワーク自体の「均質性・異質性」が新製品の普及過程に与える影響である。このことは、現在のように消費者が多様な特性を持つようになったこと、並びに消費者間のつながりの有無が新製品の普及過程に大きな影響を及ぼすようになったと考えられる市場において、より現実に近い新製品の普及現象の記述を実現するために大きな意味を有すると考えられる。
まず、消費者個人の持つ「閾値」を、自身を取り巻く関係者(自分とネットワークを構成する人々)の行動の結果としての「対人的な影響」を受けて、採用に対する態度を形成する度合いの最小値から成り立つもの、すなわち消費者自身が所属するネットワーク上で、つながりを有する消費者のうち、どの程度の割合の消費者が実際に採用した結果(行動レベル)、自身が採用を決断する(態度レベル)のかを表わすものであると定義した。そして、この個人の閾値を規定するのは、消費者自身の持つ革新性であるとした。この革新性は、領域(製品カテゴリー)に特有なものであり、自己報告型の6項目からなる尺度により測定した。また、消費者個人が属するネットワークにおける「均質性・異質性」については、「直接的なつながり」として、当該消費者との1次のつながりを定義し、この1次のつながりを持つグループ全員の閾値の平均値と分散を用いて評価を行った。
消費者個人の特性、そしてその消費者を取り巻くネットワーク環境の異質性を考慮に入れることにより、本来、社会的伝播が持つ拡散の多様性をあらわすことが可能になった。市場全体における普及過程を支配的に制御するのは、個人が単独で持つ特性としての閾値というよりもむしろ、個人が所属するネットワークが持つ特性としての閾値である。このように考えることで、同等の特性を持つ消費者が、普及過程全体のなかでは早期に採用していても、自身が所属するネットワークの中では採用が遅かったり、逆に普及過程全体では、遅く採用をしたとしても、自身が所属するネットワークの中では、採用が早かったりといった現象を説明することが可能になった。これまで消費者個人の採用行動の総和として考えられていた普及過程を、自身が属するネットワーク全体の閾値のばらつきによって記述することに意味があるということを示している。
これまで、新製品普及論における普及過程の包括的な概念とは、同質的な消費者を前提に、市場全体を集計水準として確率変数を割り当てることであった。しかし、本研究の概念モデルでは、個人としての消費者(集計水準最小)は、全ての消費者にとって共通かつ所与の個人特性のみによってイノベーションの採用を決定するのではなく、社会的に獲得した自身を取り巻く1次のネットワークを構成する消費者との関係によって影響を受ける。さらにそこでは、1次のつながりの中で、自身とネットワークを構成する人々との関係性を軸として、消費者が固有に持つ革新性をベースに新製品を採用するか否かを決定するモデルであるということが出来る。
本研究が着目した2つの点から命題が導出された。1つは、消費者特性としての採用に関する「閾値」がイノベーションの拡散に与える影響であり、もう1つは、消費者個人が属するネットワークにおける「均質性・異質性」がイノベーションの拡散に与える影響である。この2点から設定されたのが次に示す3つの命題である。
命題1(消費者個人の採用に関する閾値の存在)
市場における新製品の普及過程は、各消費者固有の特性だけに影響されるのではなく、当該消費者と直接的つながりを持つ消費者の採用行動を反映した消費者個人の採用に関する閾値に影響される。
命題2(ネットワークを形成するグループ間の均質性・異質性の差が普及形態に及ぼす影響)
命題2-1
グループ間の普及過程における情報伝播は、 直接的なつながりから得られる消費者個人の採用に関する 閾値の平均値が小さいグループから大きいグループへ進展する。
命題2-2
直接的なつながりから得られる消費者個人の採用に関する閾値が、均質なグループにおいては、グループ内での情報の拡散が可能であるのに対して、異質なグループでは、隣接する他のグループからの情報の伝播によって、自グループ内の普及過程が促進される。
命題の一般化に向けた検証は、シミュレーションによって行われた。ネットワークの持つ媒介性に着目して設定した3種類のネットワークにおいて、1次のつながりの中で消費者の新製品採用に関する閾値を設定した結果、これまでの普及モデルにおける前提を用いた普及過程と異なる、より現実に近い普及過程をシミュレートすることが出来た。
また、命題の一般化に向けての検証の過程で次のような理論仮説が導き出された。それは、普及過程におけるボトルネックの存在である。1次のつながりのグループにおける閾値の分散が大きい場合、すなわち異質性の高いグループは、普及過程のボトルネックになる可能性が高い。しかしながら、このボトルネックとなりうる異質性の高いグループは、隣接する均質性の高いグループからの影響によって一旦、新製品を採用した場合、その後の普及過程の進展に大きく寄与する可能性があることがわかった。さらに、この異質性の高いグループにおいて新製品の普及過程の進展を阻害しているのは、個別の消費者が持つ閾値の大きさだけではなく、その消費者を取り巻くネットワークが持つ特性にあるということが出来る。その結果、情報の伝播、普及過程の促進のためのマーケティング活動のターゲットとして、新製品の採用に対してリスク回避的な個人消費者を選択するよりもむしろ、その消費者とつながったネットワーク上に存在する相対的にリスク回避度の低い消費者を選択することが有効であると考えられる。
当初、新製品は、1次のつながりにおいて形成されるグループのうち閾値自体が小さく、その分散も小さいグループ、すなわち新製品の採用に関するリスク受容度が大きく、均質な消費者グループから普及過程のスタートを切る。この後、新製品が市場において広く受け入れられるか否かは、消費者を取り巻くネットワークにおける閾値の分散が大きなグループを適度に媒介して普及過程が拡散するか否かにかかっている。消費者個人の閾値の大小にかかわらず、1次のつながりにおける閾値の分散が大きなグループへと新製品が普及した場合、そのグループを通して、さらなる普及過程の進展を達成することが可能になると考えられる。
本研究では、情報処理アプローチの観点から、新製品の採用・普及研究、特に消費者の採用プロセスを捉え直し、新製品の採用・普及研究における今日の新たな課題を提示したうえで、その課題を解決するための理論的枠組みを提供していくことを目的として分析を行った。
まず、第1章では、1960年から1970年代において盛んに行われた新製品の採用・普及研究がここ最近まで停滞していた理由が述べられる。その理由として、新製品の採用・普及研究への関心が相対的に低下したことと、1980年代において消費者行動研究において展開された情報処理アプローチが、当時の段階で、新製品の採用行動を十分に説明しうる分析枠組みを持ち合わせていなかったことが指摘される。しかしながら、今日の情報処理研究の発展によって、新製品の採用・普及研究に新たな研究課題が提示されたと主張する。すなわち、新製品の採用意思決定に直面した消費者が、新製品に関する内部情報も外部情報も限られている場合に、どのような情報処理を行うのかという理論課題である。そこで、本論文では、新製品に対する消費者の採用行動における採用プロセスを捉えるための理論的枠組みを構築するという研究課題が提示される。
第2章では、本論文が依拠する新製品の普及研究に関する先行研究がレビューされ、その問題点が提示されている。まず、農村社会学にルーツをもつ新製品の普及研究の今日までの大まかな流れが概観された上で、次に、新製品の採用プロセスに関する研究のレビューに焦点が当てられる。新製品の採用プロセスに関する研究についてのレビューにおいては、新製品の採用プロセスに関する研究への情報処理アプローチの導入と、その後の展開についての考察が行われる。これらのレビューから、これまでの既存研究においては、新製品に関する情報が、消費者によってどのように解釈され、また統合されるのかということを詳細に説明するための分析がなされていないとの問題点が指摘された。
第3章では、本論文の研究課題に取り組む上で有用であると考えられる「知識転移」という概念が取り上げられ、その問題点が指摘される。まず、「知識転移」の考え方が展開された認知心理学における「知識転移」についてのレビューが行われ、その問題点が指摘される。そこで指摘された問題点は、認知心理学の考え方を消費者行動研究に適用する際の問題点であった。次に、近年、消費者行動研究の領域において導入され始めた「知識転移」の研究を取り上げ、その成果とそこから導き出された今後の新たな研究課題が提示される。すなわち、新製品の採用・普及に関して消費者行動研究において近年展開された研究は、「知識転移」という考え方を取り入れたという点で非常に評価できるものの、本論文の研究課題でもある、消費者による新製品の採用プロセスを詳細に捉えるということに関しては未だ不充分であると指摘される。知識転移という考え方は、消費者が(ターゲットと呼ばれる)新製品の採用意思決定問題に直面したときに、記憶の中に蓄積されている(ベースと呼ばれる)既存の製品カテゴリーに関する知識を援用して、その問題解決にあたるという考え方であるが、既存研究では、ある新製品に援用される既存製品カテゴリーがアプリオリに決められて研究が行われていることから、本論文では、特定の既存製品カテゴリーをアプリオリに決めるのではなく、いくつかの複数の既存製品カテゴリーの中から消費者がどのように知識の転移元となる既存製品カテゴリーを選択するのかという観点が必要であると主張している。
第4章では、第3章で取り上げられた問題点を踏まえて、3つの仮説が導出される。まず、消費者の購買関与の水準に注目し、購買関与の水準によっては、新製品の採用意思決定に直面したすべての消費者が知識転移によってターゲットの製品判断力を形成するとは限らないということで、仮説1「ターゲットに対する購買関与度の程度が高い消費者ほど、ベースからターゲットへ知識の転移を行う傾向にある」が導出された。
次に、ベースの候補となる既存製品カテゴリーは複数存在する場合があり、また、どの既存製品カテゴリーをベースとして選択するのかについては、消費者の特性によって異なるものとして考え、まずベースの選択が知識転移を促す効果に関して、仮説2「製品判断力の高い既存製品カテゴリーをベースとして選択することが、知識転移を促す」が導出された。
さらに、ベースの選択に影響を与える要因として、ターゲットのもつ属性についての判断力の程度が考えられ、仮説3「ターゲットのもつ属性に関する判断力の程度が高いほど、ベースの選択は促進される」が導出された。
第5章では、仮説の検証が行われる。仮説の検証にあたっては、デジタルカメラを対象製品として、消費者が初めてデジタルカメラを購入する際に、既存の製品カテゴリーに関する知識をどのように用いるのかということに関して、調査表を用いてサーベイ調査が行われた。分析の結果、仮説1に関しては、購買関与の水準が高い場合において、幅広い既存製品カテゴリーからの知識転移が見られ、その限りにおいて仮説1は支持されたものと考えられた。仮説2に関しては、既存製品カテゴリーの種類によって、ベースの選択が知識転移に与える影響は異なる結果を示したが、おおむね支持されたものと解釈された。仮説3に関しては、大半の既存製品カテゴリーについては、ベースの選択に対して、デジタルカメラのもつ属性に関する判断力の程度が有意な正の影響を与えていることが見出された。また、既存製品カテゴリーの種類によって、ベースの選択に影響を与える、デジタルカメラの属性に関する判断力のタイプは異なることも見出された。
本研究は,消費者情報処理研究における中核概念である,消費者知識概念に基づき,消費者の購買行動とマーケティングとの関連を理論化しようと試みるものである。
第1章では、本論文において注目する購買行動とマーケティングとの関連、そして、その現象を分析する枠組みが明確化され、研究課題が導出される。
まず、最初に、本論文において注目する概念が、「ブランドの象徴的便益」であることが示される。ブランドの象徴的便益とは、「ブランドが付与された製品の使用・所有によって、消費者がどのような自己であるかを認識(再認識)すること、そして/あるいは、他者が消費者に対して持つ印象を形成すること」を指す概念であり、この便益は、消費者がブランドに対して何らかの「ブランド・パーソナリティ」を知覚することから生じるものとされる。本論文では、ブランドに対して象徴的便益を知覚している消費者が、ブランド自体を評価基準の一つとして購買する対象を決定する購買行動を、「ブランドの象徴的便益に基づく購買行動」と呼ぶ。
また、このような購買行動に関連するマーケティング活動は、「ブランド・イメージ管理」における「イメージ強化」の段階に位置付けられることが示される。具体的には、広告やチャネル活動を通じた情報提供によって、ブランドに対して消費者が持つ象徴的便益の知覚を強化し、製品の購買を促すようなマーケティング活動である。
本論文における理論構築の対象は、このような購買行動とマーケティングとの関連にあることが明示された上で、この関連が、消費者情報処理研究における概念を用いて、具体的な研究課題として言い換えられる。第1は、ブランドの象徴的便益が態度形成に与える影響の大きさと、マーケティング活動によって提示される情報との関連を理論化することである。第2は、情報提供の結果として形成された態度と、実際に購買行動が生じる程度との関連を理論化することである。これらの2つの研究課題が、ブランドに対して関与水準が高い消費者を研究対象として想定しながら、理論化されることになる。
第2章,第3章では,予備的考察として,研究課題に対応する理論課題が導出される。そこでは,まず,ブランドの象徴的便益を、「消費者知識」概念によって表すこと、とりわけ、「ブランド・パーソナリティ・スキーマ」という独自モデルによって捉えることが提案される。そして,研究課題を理論化する際の基本枠組みが、マーケティング活動によって提供される情報と、ブランド・パーソナリティ・スキーマを構成する認知的リンケージの強度との関連にあることが示唆される。続いて,本研究理論課題1が,提示情報とブランド・パーソナリティ・スキーマによるトップダウン型処理(記憶に基づいた対象の特性を理解する情報処理)の発現との関係を明らかにすることであると指摘される。また,理論課題2は、ブランド・パーソナリティ・スキーマによるトップダウン型処理が生じた後に、態度形成にどのような影響があるのかを、ブランド・パーソナリティ・スキーマを構成する認知的リンケージの強度の変化という観点から検討することであると指摘される。
第4章,第5章では、2つの理論課題に対応する理論枠組みが構築され,実験による経験的研究が実施される。理論課題1に対応する仮説1は,消費者が活性化させているブランド・パーソナリティ・スキーマの内容と、「一致度」が高い内容の人物・使用状況の情報が提示されると、ブランド・パーソナリティ・スキーマによるトップダウン型処理が生じるということである。また,理論課題2に対応する仮説は次のとおりである。ブランド・パーソナリティ・スキーマに基づくトップダウン型処理は、ブランドに対して関与の水準が高い消費者によって行われるため、スキーマを単に活性化させる情報処理だけでは終わらず、そのスキーマに依拠して多くの思考が生み出される。そして、その思考は、ブランド・パーソナリティ・スキーマを構成する認知的リンケージを強化するような内容であることも想定されるため、この認知的リンケージの強化によって、ブランドの象徴的便益が製品に対する態度の形成に対して与える影響は大きくなるし、また、形成された態度が購買行動に結びつく程度も大きくなると考えられる。この関係が,仮説2,3である。経験的研究においては,これらの仮説のうち仮説1が支持された。
最終章では,本研究の貢献が整理される。第1は、スキーマによるトップダウン型処理が生じる規定因である「一致度」が、ブランドの象徴的便益を捉える、ブランド・パーソナリティ・スキーマという概念にまで適応されることを示したことである。第2は、マーケティングの影響を受けながら、消費者の知識が動態的に変化するプロセスを説明したことである。第3は、ブランドの象徴的便益に基づいて形成される態度の特性が、マーケティングの影響を受けながら動態的に変化するプロセスを説明したことである。第4は、消費者情報処理モデルの枠組みによって説明できる、ブランドの象徴的便益に基づく購買行動の領域を拡張したことである。
本研究は,以上の点で,消費者の購買行動とマーケティングとの関連の理論化に対して,確かな貢献をしたものである。
消費者行動の行動体系において、マーケティングは2つの側面をもって現れる。1つは、消費者行動に影響を与える源泉であり、もう1つは、消費者行動によって変化させられる対象である(cf.
田村1971)。このことは消費者行動とマーケティングが相互に影響を与えながら、その様態を経時的に変化させていく相互依存的な関係にあるものとして捉えるべき必要性を示唆しているが、従来の消費者行動研究やマーケティング研究は、消費者の自立的意思決定を前提として、この関係を一方向的に捉える傾向が顕著であった。そこでの消費者は、マーケティング諸手段を用いて働きかける対象というよりは、むしろ企業が適応すべき対象と認識され、こうした認識に基づいた研究が蓄積されてきたといえる。
しかし、マーケティング上の課題は、消費者行動の変化に適応するだけではないとして、石原(1982)は、消費者に影響を与えるマーケティング的側面、すなわち生産による欲望の創出を強調した。これは、消費者行動とマーケティングとの相互依存的関係の理論化を試みた先駆的研究として位置づけることができる。これを契機に両者の相互依存的関係という本源的な問題をめぐる議論が発展していったが、この議論が盛んに行われたのはマーケティング研究の領域においてであり、消費者行動研究においてこの種の議論が展開されることは少なかった。
しかしながら、消費者行動という学問領域は、その誕生の背景からしてマーケティングと密接な関連性をもちうるはずである。また既にふれたように、両者が相互依存的な関係にあるという点を考慮すれば、消費者行動研究においても、そのような立場にたった理論モデルが必要とされているといえるであろう。
以上のような問題意識のものと、本稿では、低関与状態における継起的購買行動、とりわけバラエティ・シーキングなる行動を手がかりに理論モデルの構築が試みられた。この理論モデルは、「内発的動機づけ」、「外発的動機づけ」という2タイプの「動機づけ」(土橋
2000; 2001)、低関与状況下における2タイプの「情報処理パターン」、購買・使用経験からの「学習」、消費者の情報処理能力を示す「製品判断力」という4要因から構成されており、これらが特定の因果関係を保ちながら経時的に変化することが仮定されている。
理論モデルを構成している4つの仮説は、先行研究の経験的研究との関連において、その検証が試みられた。方法論的にいえば、既に実施されている経験的研究において、そこで導き出された肯定的結果を累積的なものとして扱うという意味で「論理経験主義」に位置づけられる(cf.
池尾 1991; 中西 1983)。消費者の継起的購買行動をその前提としている関係上、時系列的な購買行動の変化だけでなく、心理プロセスの変化および学習の進展度といった側面をも捉えていかなければならず、その検証には必然的に膨大な時間が必要となってくるというのが、こうした方法を採用した理由である。引用された研究は、諸変数を本稿と全く同じに定義しているわけではない。また各変数間の関連性を直接的に扱っている研究もあれば、間接的にしか扱っていない研究も存在する。こうした制約条件のもとではあるが、これら一連の分析を通じて本稿の理論モデルは高い確率で妥当であるとの結論が導かれている。
本稿の貢献は、以下の4点に集約される。第1に、消費者行動研究では比較的焦点があててこられなかった非自立的な消費者に注目することによって、消費者行動とマーケティングの相互依存的関係を理論化したことである。第2に、従来、一括りに扱われてきた低関与行動を2つのタイプに分け、それらを明確に特徴づけたことである。第3は、確率論的に扱われてきた低関与行動の継起的側面を行動メカニズムにまで立ち入って説明している点である。第4は、二項対立的に扱われてきた2タイプの動機づけを統合的に扱うことによって、バラエティ・シーキング研究における内在的課題を克服している点である。
本稿の理論モデルは、関連する先行研究との関わりにおいてその妥当性が検討されたにすぎず、この点については不完全といわざるをえない。この理論モデルが現実世界との対応において、どの程度の説明力を有するのかという点は引続き追究されなければならないであろう。
かつて、文化・情報の発信力を有し、憧れの強い権威ある業態であった百貨店は、いまや、小売業全体に占める業態としての地位は著しく低下し、長期低落化の衰退業態と云われている。この大きな要因は、外部環境の変化に真正面から向き合わずに、純粋な小売業でもなく、デベロッパーでもなく中途半端に両方を追い求めたことで、経営資源の有効活用ができておらず、総じて高コスト構造を持つ業態に陥った結果であると考える。
百貨店企業は、コアコンピタンスが仕入機能から取引先テナントをマネジメントする機能へと変化してきているにも関わらず、力のある取引先のブランドを導入していくだけの表面上の化粧直しにとどまる改装に終始し、同質化という罠にはまっている。それでは、取引先という外部資源の活用を前提とした中で同質化から抜け出すには、どのようなビジネス・システムを構築すれば、高い模倣困難性を有することが可能となるかについて、少しでも明らかにすることである。
このような問題意識のもと、本論文は、百貨店企業が生き残り、さらには成長していくうえで、時代の変化、情報技術の変化、顧客の変化を踏まえ、自社の経営資源の中で、顧客への提供価値を最大化する上で、どのようなビジネス・システムを構築する必要があるかについての示唆を得ることを目的にしている。
そのため本論文では、経営成果の高い、都市型百貨店と店舗規模や取り扱う商品群が百貨店に近い、都市大型商業施設を研究対象としている。また、脱同質化を果たす上で重要となる自社による品揃え機能向上への示唆が得られるという観点から製造小売り企業も研究対象に含めている。
事例研究の結果、経営成果の高い小売企業のビジネス・システム設計は、その企業が掲げる顧客サービスの本質と各システムの要素間の関係がスムーズであり、ビジネス・システム内の部分同士のつじつまが合って、隙間なく全体のシシステムが動いていることが確認できた。また、ビジネス・システムは経済効率性だけをもたらすのではなく、企業の経営資源(ノウハウ)の蓄積に大きな効果をもたらし、この経営資源の蓄積が、競争優位に繋がっていることが判った。
そして、百貨店企業が他社との差別化を図り、比較優位を築く上で必要となるコア業務として、「取引先テナントへのオープン・インテグラル型の管理能力」と「差別化商品が入手可能な自主編集能力」の2つの組織能力が抽出できた。これら組織能力を高めるしくみとして、前者は「他社業務のコントロール」において、競争原理の導入と取引コストの軽減が、後者は「自社業務のコントロール」において、自社固有の人材を育成・蓄積するために、中長期的な視点で経営資源を投入していくことが必要であるという示唆を得た。
最後に百貨店企業のビジネス・システム再構築の事例として、大都市ターミナル立地で賃借物件の店舗における格下げ戦略について、具体的な店舗戦略の提言を行った。
文具・事務用品市場の顧客は長らく法人であった。しかし、昨今の景気低迷を受け、法人市場は頭打ち、もしくは縮小の一途をたどっている。その中で、注目され始めたのが、個人であった。この個人は、所属企業の経費削減によって社内支給が受けられなくなり、自身で必要な文具の購入を行うようになった。さらに個人には、自分で購入するのであれば良いもの、気に入ったものを購入したいという思いがあり、比較的高値のものでも購入される傾向がある。このような状況を受け、当市場では、個人向け文具の開発・販売が活発になっている。この流れで、最もチャンスがあるのは文具専門店である。しかし、文具小売チャネルには、他業種・他業態の競合が多い。こういった状況の中、文具専門店に必要とされるのは独自のコンセプトを打ち出した店舗であり、そのためには文具専門店のブランディングが求められると考える。
本研究では、この文具専門店のブランド構築をどのように行っていけば良いかについて、企業分析と顧客分析を通して論じていく。
まず、企業分析では、先行研究を元にフレームワークを構築する。そのフレームワークに沿って、ブランドが構築されている、または、構築中と思われる2社の分析を行っていく。
次に、顧客分析では、企業分析で考察された各企業が自社の提供価値をどのような方法で提供しているかを参考にし、調査票を作成。その結果に対し、提供方法が顧客満足度、次回購買・利用意向、次回推奨意向、WTPにいかに影響を及ぼしているかについて分析を行っていく。
以上の分析から、まず、文具とは、単なる機能充足だけではなく、顧客の嗜好やこだわりを満たすことで商品に対する愛着を感じてもらうことが求められるものであることがわかった。この嗜好やこだわりを満たす要素としては、デザインや質感、ブランドが挙げられる。次に、文具専門店とは、顧客が来店しやすい場所に立地し、顧客が欲しい文具を取扱うことが求められることがわかった。店舗では顧客の「文具購買」という主目的以外で煩わしさを感じさせないよう、居心地に良い店舗空間を作り出すことに配慮することが求められる。
こうした文具と文具専門店に求められる価値がわかった一方、これらの具体的内容を思案するためにはまだ思考しなければならないことがある。それはターゲットの設定である。設定が求められる理由は、先述の内容はどの顧客のニーズを満たすかによって大きく変わってくるからである。ターゲットの設定については、企業分析で扱った2社がどのように現在のターゲットを導いたかのプロセスからヒントを得られる。彼らはまず、自社の目指すべき姿と提供価値を定め、それに即した商品を見合った価格で販売した。その結果、それらを通して彼らの価値が最も伝わっていると思われる顧客が浮き上がってくる。次にこの顧客を観察しコミュニケーションしていくことで、より詳細なニーズを把握していくことを可能にし、サービスの向上を行ってきた。このサイクルを回すことで、より彼らと彼らの顧客との関係性は深まっていったと考えられる。
今回、ブランド構築対象とした中小規模の文具専門店は、まず現状自分達が提供している価値に最も反応している顧客を見極め、その顧客の中にどのような自店イメージが作られているのか、それはどの媒体によって成されたものかを知っていくことが重要となるのではないかと考える。
IT業界は、これまでのインテル、Microsoftを中心とした企業から、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル、モバイルといった分野で先行するBIG4(Google、Amazon、Apple、Facebook)へと移行し、業界構図が大きく変わろうとしている。その中でもビッグデータ市場では、今後、少なくとも10兆円規模の付加価値創出及び12~15兆円規模の社会的コスト削減の効果があると考えられる。こういった外部環境の中、企業各社はビッグデータについての興味、関心が非常に高まっている。しかし、現状は、ビッグデータに関する問題および課題が浮き彫りになっている。ビッグデータという言葉ばかりが先行し、情報の収集法や活用目的が不明確となり適用する分野がわからないといった問題が上げられる。これらの問題を解決するために、ビッグデータにおける情報収集方法、情報活用方法、業種別活用状況などを調査し、それらを分類する。その後、類型化の結果を踏まえこれからの情報社会について考察する。
ビッグデータ活用についての現状分析(調査事例105件)をまとめると業種別件数は製造業22件、情報サービス業18件、流通業17件の順である。通信業、運輸業、医療・健康、エネルギー、公共については7件以下であった。活用パターンについては、プロモーション30%、プロダクト・プライス活用20%、見える化のみ16%であった。活用詳細については、見える化のみの活用16%、広報10%、アフターサービス8%、ウェブマーケ6%、生産管理6%、広報+ウェブマーケ6%であった。現状分析を踏まえ仮説検証を行った結果、情報サービス業ではプロモーション活用、流通業ではプレイス活用、製造業ではプロダクト・プライス活用を利用していることがわかった。情報サービス業においては、プロモーション活用の中でも以下の2つを主に活用している。1つ目はDM・サイト・メルマガによるリコメンド情報提供やリテンション情報提供、行動ターゲティング広告、1to1マーケティングなどの「広報」を中心とした活用法である。2つ目にLanding Page Optimaizationといったサイト最適化や検索機能向上、電子チラシ提供、ランキング表示などの「ウェブマーケティング」を中心とした活用法である。次に流通業においては、プレイス活用ではサプライチェーン改善やチャネル最適化などの「SCM」関連、設備効率化や店舗、生産オペレーション、出店支援、候補地開拓、従業員教育などの「生産管理」関連での活用を中心としている。また、店舗改善、クーポン配信(O2O)、ポイント付与、カタログ配布、キャンペーン実施など「販売促進」といったプロモーション活用も行っている。次に、製造業においては、プロダクト・プライス活用の中でも以下の2つを主に活用している。1つ目は新製品開発、製品改善、品質改善、新事業創造、マーチャンダイジング(品揃え)などの「製品やサービス」に対する活用法である。2つ目はリスク管理、異常、故障検知、サポート、遠隔管理、盗難防止、サンクスメールなど製品やサービス購入後の「アフターサービス」に関する活用法である。業種による活用法の差異は、ビジネスモデルの違いが大きく影響していると考える。
検証結果から、ビッグデータ活用は企業が収集したデータを中心に業界特性に近い活用法が実施され、その企業のみの経営に活かされているケースが多く、いわゆる活用法が各社個別最適の状態であることがわかった。これでは、業種間で活用方法が限定されている。情報の共有や連携ができず、縦割り構造となりビッグデータ活用の可能性を狭めている。対策としては、業界を超えたデータやインサイトを共有しこれまでにない新たな価値を創造する必要がある。そのためには、より多様な大量データを対象とし、リアルタイムに分析しなければならない。また、データ収集やデータ分析だけではビジネスにならない可能性があるため、経営といった大きな視点でITを捉え、ビッグデータの活用とビジネスモデルを直結させることが非常に重要になってくる。
本研究ではこれからのビッグデータ活用の具体例(将来レストラン)とそれを実現させるための業界リーダーシップについても考察する。
本論文は大型商業施設における競争優位の源泉について、イオン㈱が運営するショッピングセンターの2011年度実績を下に、定量的に検証するものである。
筆者は2005年春に開店したスーパーマーケットの総務責任者として、またその後担当した、新規開発店舗の事業計画作成業務を通して、新規開発店舗の「予算と実績の乖離」という問題に直面し、この経験を出発点として本論文の作成に当たった。
新たに開発する商業施設の売上予算作成の根拠となる、商圏内シェアの推計について、先行研究を学んだ上で、①商圏内シェアに影響を与える変数は何か、②商圏内シェアについて店舗による差異の分析、③商圏の情報から、新規開発店舗の売上予測モデルの作成は可能か 以上の3つの視点から研究を進めた。具体的な研究方法は下記の通りである。
①については、イオン㈱が運営する大型ショッピングセンターのうち、29の商業施設について、商圏内シェアを従属変数に設定し、まず、先行研究により相関があるとされている、店舗までの距離及び時間、店舗面積について実際の相関を分析した後、その他に大きな影響を与える独立変数を導くことにより商業施設の競争優位の源泉を導出するものである。
②については、店舗ごとにダミー変数を設定し、店舗までの距離及び時間、店舗面積に加え、ダミーコードを独立変数に追加した上で重回帰分析を実施することにより、店舗毎の商圏内シェアにおける差異を分析する。
③については①の分析において導出された回帰式を、既存店の実績に代入することにより、理論的なシェアを推定し、そこで得られた数値から売上予測を実施することが可能かどうか検証するものである。以上3つの視点から重回帰分析を実施し結論を得た。その分析結果については下記の通りである。
①について、まず、商圏内シェアと車時間・店舗面積については相関が見られたが、先行研究(ハフ、1963)にある対数的な関係ではなく、その相関は線形であった。また、種々の既存店舗実績を独立変数に追加することによって、商圏内シェアに対してイオン直営売場におけるアパレルの売場面積構成比が大きく影響を及ぼしていることが分かった。イオン社内、また流通業界全体においても食品売場の充実に注目が集まる中、むしろ、商圏内シェアは食品の売場面積構成比に対して負の相関があり、アパレルの売場面積構成比に対して正の相関があるということを定量的に実証した。
②について、ルーラル立地の店舗は相対的に店舗の魅力が高く、逆に、都市部に立地する店舗は相対的に店舗の魅力が低いということが分かった。この分析結果は、イオンが開発するショッピングセンターの位置づけが立地によって異っていることを表しており、ルーラルではその位置づけが百貨店的な一面を持つことに対し、都市部においては最寄品の購買がメインになっているということである。
最後に③についてはシェア予測のモデル式は導出したものの、その理論的に算出される売上と実際の売上には大きく乖離が見られ、実務に応用可能なモデルを導出するには至らなかった。
本研究の結論として、イオンの大型商業施設のシェア拡大には直営売場のアパレルの充実具合が大きく影響していることが分かった。このことは相対的に店舗の魅力が低い都市部における店舗について、直営アパレルの売場改革がなされることで車30分圏内の顧客吸引力が上がり、そのことでイオンのショッピングセンターの業績が改善する可能性が大きいということを示唆している。
日本の銀行が国債の売買益に収益源を頼るビジネスモデルの見直しを迫られる中で、リテールバンキングに注目が集まっている。投資信託の販売による手数料収入やカードローンや目的ローンといった小口消費ローンなどの有望分野があるが、長期的には人口減少が進展する中で預金獲得の重要性がカギを握ると考えられている。
しかし、預金は商品が単純であるために、差別化努力をおこない預金の獲得に努めてもすぐに模倣されてしまう。これでは、地域を超えた他の金融機関への預金の流出を止めることができず、模倣困難な差別化が求められる。
差別化を図るためのマーケティング戦略を策定する上では、市場を構成する消費者についての深い理解が不可欠である。このため、本論文では、どのような消費者がどのような価値を求めてメインバンクを選択しうるのかを明らかにすることを目的としている。
先行研究レビューにおいて、消費者行動論について整理し、池尾(2011)による関与度と判断力によって規定される消費者の購買行動にどのような違いがみられるのか整理した。続いて、消費者が求めうる価値について分析するために、価値についての文献レビューをおこない、本論文においてはSchmitt(2000)の提唱する経験価値モジュールに基づいて価値を分析することとした。さらに、パフォーマンスについても整理し、マーケティングの成果として、どのような価値がどのようなパフォーマンスに結び付くのかを考察し、本論文が実務に示唆を与えられるものにしたいと考えた。
以上の先行研究レビューから関与度と判断力、利用目的という2つの規定要因において、どのような経験価値モジュールがどのようなパフォーマンスに結び付くかを明らかにするための分析モデルを構築した。
研究は、事例研究と実証研究を行っている。事例研究では、毎年高い顧客満足度評価を得ている大垣共立銀行や巣鴨信用金庫を事例対象とし、公開資料やインタビューを通じた事例研究を消費者が求めうる価値を抽出した。実証研究では、先の事例研究で得た質問事項を加えたアンケート調査を行い、調査結果について統計的解析を行った。
規定要因を因子分析した結果、関与度と判断力については先行研究通りに4分類することができた。また、利用目的については出費管理クラスタと資産形成クラスタに分類することができた。また、消費者が求めうる価値について因子分析を行った結果、感覚価値因子、合理性因子、安心感・利便性因子の3因子に分類することができた。これらの規定要因の違いにおいて重視する価値とパフォーマンスの関係について、一定の結果が得られた。
結果から、日本のリテールバンキングにおいては、感覚価値重視戦略または合理性重視戦略のいずれかをとりうることが他の金融機関に対する差別化につながることを提案した。一方で、安心感・利便性因子は規定要因の違いによらず重視されており、いずれの戦略を取るにしても安心感・利便性因子は不可欠な価値であると結論付けた。
中国で日本企業がとくに一般の消費者に商品を販売すること場合に現地商習慣や食の嗜好の違いを理解することが難しい。中国進出を失敗させないためにはそれらの違いを理解することが必要である。企業が台湾を経由して中国に進出する方法の有効な条件を見つけること本論文のテーマである。実際に台湾を経由して中国へ進出したファミリーマートと中国へ直接進出したローソンの2社を分析することで、台湾経由中国進出の有効な条件を見つけた。
まず、2社の中国進出の展開の流れを分析し、それぞれの特徴を整理していく。両社の共通の特徴は、台湾や中国において、進出当初日本のような発達した中間業者がなく、自前で整備をする必要があったことである。一方で相違点として、ファミリーマートは現地パートナーに事業の運営を積極的に任せているのに対し、ローソンは完全な日本型コンビニ経営の現地導入に拘っていた。その結果、ファミリーマートが中国へ進出をした際、台湾系大手食品メーカーに事業運営の責任を与え、積極的な多店舗展開を行った。
次に台湾ファミリーマートと中国のファミリーマートに絞り、それぞれの特徴を整理していく。ここでは、小売の国際化プロセスの理論の中で説明されている、自国の“標準”を現地に“適応化”させるプロセスが必要で標準化と適応化の両立が外資の成功可能性を高めることについて、分析する。具体的には、台湾ファミリーマートにおける日本の標準を移転した特徴とその標準を導入した成果、また、台湾ファミリーマートにおける適応化の特徴とその成果である。
さらに、台湾ファミリーマートと中国ファミリーマートのサプライサイド(標準化)とディマンドサイド(適応化)を分析し、比較をした。
最後に上記の分析結果をもとに企業が台湾を経由して中国に進出する方法の有効な条件を導出した。
本論文では、ルイ・ヴィトンとコーチにおける日本市場の成功要因について論じる。
戦後日経平均株価は上昇し続け、1989年12月29日に過去最高金額である38.915円を記録したが、その後2003年まで株価は減少していった。そして2003年4月28日には、当時過去最低の7.603円を記録し、1989年から2003年まで日本市場の多くの企業の価値が減少傾向にあった。そういった状況にある中で、有名な外資系の服飾雑貨ブランドであるルイ・ヴィトン・コーチ・グッチ・エルメス・プラダは順調に売上を伸ばし続け、特に2000年頃まで各社とも好調であった。しかし、その時期を境に、徐々に売上を落とし始めていったのだが、2社だけは例外であった。それは、ルイ・ヴィトンとコーチである。2社とも売上を伸ばし続け、特にルイ・ヴィトンは、他者の追随を寄せ付けない程圧倒的な売上を、コーチはわずか数年で著しく売上を増加させることに成功した。では、このような各社売上を落とし続けている中で、いったいなぜこの2社が売上を伸ばし続けることが出来たのであろうか。本論文では、このルイ・ヴィトンとコーチが日本市場で成功した理由を明らかにしていきたい。
研究の進め方は、バーンドH.シュミットの提唱した経験価値モジュールを使用する。そして購買後の評価の尺度として、満足度・次回購買意向・WTPを使用し、経験価値モジュールとの関係を考察する。そのために、まずルイ・ヴィトン、もしくはコーチを購入した消費者に対するアンケート調査をインターネット上で行った。
本論文では、消費者がコーチ、ルイ・ヴィトンに対して、どのような経験価値を得られているのかを明らかにするために、 2つの観点から重回帰分析を行った。分析1では、コーチ、もしくはルイ・ヴィトンを購入した消費者は、どの経験価値モジュールを満足度、次回購買意向、WTPに対して重視しているのかを考察した。分析2では、コーチを購入した消費者とルイ・ヴィトンを購入した消費者を別々に考えてみると、お互いどの経験価値モジュールが満足度、次回購買意向、WTPに対して重視しているのかを考察した。以上の分析結果をもとに、ルイ・ヴィトンとコーチの日本市場における成功要因を消費者の経験価値の視点よりまとめた。
1990年代以来、ファストファッションのブームの出現に伴い、多くの学者がそれをテーマとして研究を開始した。特にZARAなどファストファッションの大手に関する先行研究は数え切れないほど出ているが、それらの多くサプライサイドに関するものであり、デマンドサイドである消費者の購買行動に関するものは多くない。
一般的に商品によって消費者の購買行動が異なる。アパレル、特にファストファッションでは、消費者の購買行動は消費者の価値を十分に反映していると考えられる。ファストファッションにおいて、どのような消費者がどのような価値を持って購入するのかを明らかにすることが、ファストファッション企業のマーケティング戦略において重要ではないだろうか。
マクロ環境から見ると、中国は新興国の代表として経済が著しく成長している。経済成長とともに、マーケットのボリュームゾーンである中間層の消費も拡大しつつある。ファストファッション業界では、世界の大手企業が相次いで中国に進出し、事業拡大を図っている。中国が世界最大のファクトリーから世界最大のマーケットへ変貌している。企業の立場では、いかに中国の消費者の心理を掴み、マーケットシェアを占有・拡大し、リピーターを増やすかに悩んでおり、各社がそのマーケティング戦略を検討しているだろう。
このような背景の下、以上の問題意識を明らかにするために、本論文では、まずファストファッションの大手であるZARA(サプライサイド)を典型例としてそのビジネスモデル(特にサプライチェーンマネジメント)を分析し、そして消費者(デマンドサイド)の購買行動の特徴も分析する。また、両方面の分析結果を結びつけ、ファストファッション消費の特質を解明した上で、分析のモデルを構築し、それから仮説検証フェーズに入る。最後に、アンケート調査結果と消費者の購買行動の特徴を踏まえ、ZARAのようなファストファッション企業へマーケティング戦略の方向性を提言する。
インターネットによって創発されたネットワークを利用する、情報の非対称性の解消を担うプラットフォーム・サービスと呼ばれる仲介業が頻出しているが、ミスマッチ問題が無くなることはなく、プラットフォーム・サービス同士の競争も依然として激しいものがある。ミスマッチが最も顕著なのは労働市場である。特に、製品やサービスの高付加価値化等に対応するといわれる「専門的・技術的職業」(技術者人材)においてミスマッチが起こることは、我が国の経済にとっても大きな損失である。プラットフォーム・サービスが社会的意義を持つためにも、いかに質の高いマッチングを創出できるかが、そのサービス事業者の競争優位性になると考える。
本研究においては、設計情報の存在が製品やサービスの供給に先立つとするアーキテクチャ概念に着目し、高質なマッチングを創出するプラットフォーム・サービスが採用するべきアーキテクチャについて議論する。
高質なマッチングを創出するプラットフォームのアーキテクチャは「オープン・インテグラル・アーキテクチャ」という作業仮説の下、その妥当性を評価した。評価された作業仮説には、さらに、「インテグリティ・ドライバの働き」という発見が加わり、発展的な作業仮説として「オープン・インテグラル・プラットフォームでは、プラットフォーム事業者によるインテグリティ・ドライバが働き、補完業者と利用者との相互作用が高質化されている」とされた。ここから、そのインテグリティ・ドライバの導出と、それらの技術者人材のプラットフォームへ転用可能性を検討した。
インテグリティ・ドライバの導出に向けては、事例研究とインタビュー調査を行った。その際の、研究対象事例の抽出方法としては、プラットフォーム・サービス利用者の選択行動は、消費者の購買行動と同質的であることから、プラットフォーム上で取引される財の性質に着目した。財の性質の分類には、製品判断力と購買関与度の2軸で類型化する池尾グリッドを用いた。その結果、抽出された2社の事例研究を行い、それぞれから「探索活動能力」と「ニーズ変換能力」というインテグリティ・ドライバを抽出することができた。そして、そのインテグリティ・ドライバが、技術者マッチング・プラットフォームでも有効に作用するかどうかについての仮説を構築し、アンケート調査による検証を行った。質問票の質問項目は、事例研究に見られた現象を基に作成した。その結果、「探索活動能力」と「ニーズ変換能力」の両方とも、技術者マッチング・プラットフォームにおいて正の効果を与えることが分かった。
この論文では、低価格帯の絵画作品を扱うwebプラットフォーム・ビジネスの戦略について論じる。 絵画の流通は百貨店、ギャラリー、インテリア等を扱う小売店といった店舗販売、及びインターネットを利用した販売だけでなく画商を介した個人間取引やオークションによる二次流通があるが、この研究では新品の西洋画を取り扱う店舗販売、インターネット販売を研究の対象とした。
絵画のように一点一点が大きく異なり、ユニーク性が高い商品は多数の品揃えが可能なインターネットでの流通に適していると考えられる。さらに、webプラットフォームの業態は、既存の店舗を持っている流通業態が取り扱い辛い低価格の商品を大量に取り扱うことが出来るという利点を持っている。しかし、現状で絵画のインターネット流通は、既存のギャラリーのweb販売への取り組みや絵画販売のwebプラットフォーム・ビジネスでも成功しているとはいえない状況である。この現状を問題点として着目し、絵画販売のインターネット流通、特にwebプラットフォームの普及を目的として研究を行った。また、プラットフォームにおいては絵画の売り手と買い手が重要な要素として存在するが、この研究では買い手である消費者の行動に着目して研究を行った。
研究の進め方としては、『消費者業態選択の規定因:購買関与度と品質判断力』(池 尾1993)をもとに、購買関与度と製品判断力の違いによって生じる、消費者の重視点の違いと選択する購買場所の違いについてフレームワークを用いて仮説を構築、インターネットによるアンケート調査を行い、分析を行った。
本論文では、消費者の購買場所選択に関する研究を行うために大きく分けて2つの分析を行った。第一に、消費者の関与・判断力が異なると重視する店舗選択要因がどのように異なるかという関係、同様に関与・判断力と重視する商品属性の関係、関与・判断力と重視する情報源の関係を重回帰分析を用いて明らかにする分析を行う。第2に、消費者の関与・判断力が異なると選択する購買場所はどのように異なるのかという分析を、平均値比較を用いて行う。この分析結果をもとに、それぞれの購買場所を選択している消費者がどのような特徴をもっているか、またなぜそのような特徴が表れているか、どのような消費者がどういった理由でインターネットでの購買を行っているかについて考察を行った。
最後に、上記の分析結果をもとに、インターネットを利用している消費者の特徴についてまとめ、webプラットフォームが現状で抱えている課題について論じ、その課題に対するマーケティング戦略の提案を行った。
CD不況という言葉で呼ばれるように、CDの総生産金額は1990年代後半から減少している。1998年の総生産金額6074億円をピークに、ここ10年止まる気配なく右肩下がりの状況が続き、2009年の総生産金額は2496億円(音楽配信を含めて3406億円)とここ十年で約半分にまで減少している。この影響を受け、苦境に立たされているレコード会社やレコードショップも少なくない。
このような急激なCDの売上減少の背景には、様々な要因が存在していると言われている。
大きな要因の一つに、音楽コンテンツのデジタル化が挙げられる。一般家庭に広くパソコンが普及したこと、音楽圧縮技術の向上、通信インフラの発達などに後押しされ、音楽のデジタル化は消費者にとって広く一般的なものとして受け入れられた。その一方で、YouTubeをはじめとする動画サイトの登場や違法ダウンロード問題により、権利が侵害される問題が発生した。消費者がお金を払わずに、あるいは有料音楽配信など従来に比べて少ないお金で音楽を楽しめるようになった。
このように、ここ10年で音楽を取り巻く環境は大きく変化し、それに伴い消費者の視聴行動、購買行動も大きな変化を遂げた。しかし、その実態は多様・複雑であるが故に、正しく把握されていないのではないだろうか。
本研究では、その多様化・複雑化した消費者の購買行動を購買関与度と製品判断力という2つの基準を基に分析を行なった。それにより、消費者の情報源選択、音楽商品購買理由やパッケージ商品購入へのこだわり、コンサート参加・不参加の理由に関して、消費者行動の現在の姿を体系的に明らかにした。また、その結果をもとに、レコード会社が取るべきマーケティング戦略に関しても言及した。
本研究では日本での電子書籍市場における中間流通業のビジネス活動を扱ってゆく。電子書籍とは紙媒体の書籍をデジタルコンテンツ化し、専用端末やiPadといったタブレット端末、スマートフォンといった携帯電話などのデジタルデバイスを利用して閲覧するものである。特に2010年から日本では電子書籍元年といわれ、様々な業界企業が市場に参入を表明し、様々な商品、サービスをリリース、販売を開始し始めている。しかし、積極的に取り組んでいるは一部の大手企業に限られているのも事実である。日本の電子書籍ビジネス市場というものが、未だその全体像が明確には見えていないのも事実であろう。
本研究の目的は、日本の電子書籍市場における取次業の新しいビジネスモデルにむけた考察を行うことである。それは、企業のビジネス戦略というよりは市場全体が最適化された状態で発展してゆくための基本的な流通体系を考えるのが目的である。したがって、ここ最近、電子書籍に関するニュースは途切れることなく新聞、雑誌で取り上げられているが、商品、サービスのスペックや機能等にとらわれず、業界や市場を流通の基本的理論、また客観的な見地からモデルを検討してゆくものである。
本研究の手法としてはいくつかの理論研究、そにて米国における事例研究を行い、そこで得られた分析結果から最終的に日本における電子書籍市場での流通モデルに焦点をあて本研究を進める。
研究結果としては、日本において電子書籍市場での流通ビジネスを最適化し、適切な成長をさせてゆくには米国の成功事例を真似ることではなく、日本の出版事情を考慮した日本に適したモデルが必要であるということである。
近年のサーバビジネスは、ハードウェアからソフトウェアとサービスまでをパッケージとして一括提供し、コンサルティングをより重視した問題解決型のソリューションビジネスが主流となってきている。これまでの問題解決型の提案は、データの共有、一元管理によるコスト削減や業務プロセス改善ニーズを満たすものが主流である。こうした状況の中、富士通のサーバ事業は自前のハードやソフト資源を活用し、Windows/Linux/Unix/メインフレームと全ての領域をカバーする全方位戦略を取っている。しかし、各社のサーバは性能や機能に関して同質化の傾向があり、製品自体での差別化は困難になってきている。特にUNIXサーバは、安価なPCサーバなどの高機能化によりその座を奪われようとしており、銀行や公共など信頼性が求められる「ミッションクリティカル」な分野に強みを持つUNIXサーバの今後の生き残り戦略が問われている。
UNIXサーバの今後の戦略においては、既存顧客を維持する戦略と新規顧客を開拓する戦略が考えられる。本論文では、これまでに既存顧客を維持する戦略は十分検討されていることや縮小傾向にあるUNIXサーバ市場の現状打開という観点から、新規顧客を開拓する戦略について研究を進める。研究対象の新規顧客は、情報システム事業のスイッチング障壁の高さを考慮し、未開拓の中小企業とする。中小企業の顧客が情報システムを選定するメカニズムを解明し、理論モデルを構築することを目的とした。これまでは顧客を分類する際、製造業や金融業などの業種別で切り分けられていた事例が多い。また、情報システムを利用シーンレベルで標準パターン化する施策も行われているが、累積された既存顧客の要件から導き出され、複雑化している。情報システムの受注プロセスは、利用目的の多様化、組織部門の分散化や技術変化のスピード等に対応するため、これまでの属人化した営業経験や勘に頼る現場型から、モデル化された分析型への移行が不可欠である。そこで、業務特性や組織特性などの理論的な側面からの視点を取り入れることで、富士通UNIXサーバとのマッチングが高いターゲット市場を探り、その市場に対するシンプルなアプローチ方法を提案することを目指した。
研究では、組織購買行動に関する理論研究に基づいた仮説の構築を行い、中小企業へのアンケート調査により検証を行った。提唱モデルでは、戦略的要因、組織的要因、実務的要因が、情報システムを導入する際の重視項目、情報源の選択、発注先の選択に影響を与えることを示した。特に、組織的要因に関しては、組織内のキーパーソンを固定化することなく、その機能を要件決定と購買決定とに分けて、その所在に注目した。そして、各要因間での関係性を検証し、今後の戦略への提言として、導入目的と適用業務による市場細分化・ターゲットの選定とマーケティング計画の策定を試みた。
この論文では、近年メディアでも注目されるファストファッションという新しいカテゴリーを取り扱う。消費者はファストファッションという言葉を身近に感じているようであり、ファストファッションで衣類を購入している。ファストファッションの革新性とは、衣類を速く、安く、おしゃれに販売するところにあると考えられ、それを実現可能にする流通や生産の面で革新性があったことは先行研究がある。しかし、それらの革新性によって消費者が得たメリットや、新しい価値について論じているものは少ない。
本論文では先行研究を踏まえた上で、ファストファッションが日本の消費者もたらした新しい価値に関する仮説を導出することを目的とし、第一にファストファッションを明確に定義する。メディアでは、ファストファッション=安い衣類を売る企業という文脈になっている。メディアが一般的にファストファッションと総称する企業群を改めて定義に基づいて検討する。第二に、ファストファッションの商品と生産流通プロセスの革新性を分析する。今までの先行研究では、ファストファッションと従来のアパレルメーカーとの比較をある一面からのみ議論している。本論文では、ファストファッションが従来のアパレルメーカーと相違する部分を洗い出していく。第三にこのようにファストファッションが大きく成長した背景には消費者の存在がある。企業の提供する商品には提供価値があり、その価値を消費者はどのように受け止めているのかを考察する。
以上を踏まえ、本論文において消費者にとってのファストファッションの価値を仮説として導出する。
09年度の全国百貨店売上高は6兆5,842億円で、ピークの91年度に比べて△3兆1,283億円と大きく落ち込み、各社の営業利益率をみても、収益性の低い状況が続いている。百貨店は80年代まで大店法に保護され、業態として延命を続けてこられたが、70年代にはすでに業態としての競争力を失っていた、というのが実態である。
私の派遣元企業である㈱大丸松坂屋では、これまで業界全体として曖昧なままであった、消化仕入の「ショップ運営売場」と買取仕入・自主販売の「自主運営売場」における社員の役割を明確化することなどにより経費構造を革新し、これまで低益率のため百貨店では導入することのできなかったテナントの誘致も可能となるような、業態レベルの経営構造改革に取り組んでいる。
本論文では、大店法が規制緩和された90年代以降急速にシェアを伸ばしているSC業界の現状分析をすることで、国内百貨店事業というドメインにおいては、「都心型百貨店の売場効率最大化」が百貨店の拡大戦略であると定義し、「中心地理論」「商品分類論」「延期と投機の理論」及び「ファッション商品の特性」(常に新しい判断基準を追加して判断基準を安定させない→消費者は新しい判断基準が必要になると距離抵抗が小さくなる)などから、上位中心地における商業施設のテナントミックスについて仮説構築を行った。
仮説1.上位中心地ではファッションの売上構成を高めることで、商業施設の商圏を広く設定できる。
仮説2.投機型よりも延期型SCMのSPAの方が、上位中心地に適したテナントである。
1都3県における中心地性とその推移を明確にし、それに伴う商業者の変化対応についての考察、及びファッションブランドのSCMと中心地性についての考察により仮説の検証を行った。ただし仮説2においては、延期型SPAは投機型よりも上位中心地に適しているものの、最上位の中心地に適しているとは言い切れない、という課題が残った。
そこでファッション業界の変遷を振り返ることで延期型SPAの立ち位置を明確にし、また人気ファッションビルのテナントの事例研究をすることから、シーズン毎のトレンド、消費者の判断力、経済情勢や消費環境の変化、またブランドごとのSCMやメッセージ性を勘案し、現在では「(インポート)セレクトSPA」といった業態や、行き過ぎた延期型SPAの反動から「一貫したメッセージ性」を発信するブランドが、最上位の中心地に適していると位置付け、最上位の中心地である銀座地区の百貨店について、具体的なテナントミックスの提言を行った。
近年、インターネットにおけるコミュニケーションサービスが活発になっている。それに伴い、消費者生成メディア(Consumer Generated Media)を通じた消費者からの情報発信、情報収集が行われている。これは、購買決定過程において消費者に様々な影響を与えることを意味している。CGMは企業のプロモーション活動に非常に効果が見込まれるが、情報発信源が消費者であるため、企業がコントロールすることが困難である。そのため、企業のプロモーション活動に有効活用しきれていない現状を問題点として着目し研究を行った。
研究の進め方としては、『消費者の業態選択の規定要因』(池尾 1993)と『ネット・コミュニティのマーケティング戦略』(池尾 2003)をもとに、購買関与度と製品判断力の違いによる消費者の情報源選好やネット・コミュニティについてフレームワークを用いて仮説を構築、インターネットによるアンケート調査を行い、分析を行った。研究を進めるにあたり、消費者の情報源を明確にするため、購買頻度が高く、一定の購買関与度が維持できることから化粧品に焦点をあてた。
化粧品関連CGMは閲覧者、投稿者、サイトの情報から成る。アンケート調査では、閲覧者の属性、閲覧者が選好する情報、投稿者の特性について3つの分析を行いった。
サイト閲覧者を特定するアプローチとしては、先行研究をもとに化粧品購買に対し関与・判断力に影響を与える要因、そして関与・判断力と情報源選好の関係について分析した。閲覧者が選好する情報について、化粧品関連CGMで提供される情報はスペック情報、新商品情報、口コミ情報、ランキング情報の4つに分類される。関与・判断力の違いとCGMにおいて提供される4種類の情報選好との関係について分析を行った。投稿者の特性の分析として、CGM投稿者の情報源について分析を行った。
上記の3つの分析結果をもとに、化粧品メーカーがCGMをいかにコントロール可能にするか、またプロモーション活動においてCGMを有効活用する方法についての示唆を導きだした。
本研究では、コンピュータの新しい利用形態であるクラウド・コンピューティング(以降「クラウド」と省略)について、現在、曖昧になっているクラウドの定義を明確化し、クラウドがいかなる状況にあり、どのような可能性を持ち、また、どのような課題・懸案材料を有するかについて、クラウドサービスの提供者および利用者双方の立場から事例を通して理解を深めていく。
第1章では、国内クラウド市場において、2012年度末、富士通は売上高3,000億円(市場全体の約66.5%シェア)を目標に掲げているが、市場では海外大手企業や国内大手企業、中堅・中小企業を交えた激しい競争が起きており、目標到達に向けて厳しい状況である事を認識した。
第2章では、クラウドの成り立ちと現状について説明した後、クラウドの定義を「仮想化/分散並列処理技術によるサービス形態」として明確化した。
第3章では、新しいビジネスモデルの登場によって、既存の強者の強みを弱みに変えてしまう可能性がある為、富士通にとって、今後、脅威となるリスクを回避することを目的として、現在、世の中にある企業のビジネスモデルを3分類「マーケット・バスケットモデル」、「広告モデル」、「ネットワークモデル」にまとめて説明した。
第4章では、国内クラウド市場において、今後、富士通が激しい競争を勝ち残っていく為には、プッシュ型からプル型のマーケティング戦略へのシフトが鍵となることが分かった。
第5章では、クラウドサービスの利用者の立場に立って、クラウドの利用者メリットモデルを作成し、顧客満足の観点から、クラウドサービスの今後の可能性について仮説を提示した。また、甲府市役所の事例によりモデルと現実適合性との相違を課題・懸念材料として説明した。その中で、業務標準化がうまくできる組織であり、コスト削減効果をうまくシステム部門に投資できる組織がクラウドサービスへの移行を成功させる。その為には、「マネジメント」と「ガバナンス」によって改善を継続的に行うことが重要であった。
最後に、第6章では、富士通の生き残り政策として、クラウドサービスの利用者の立場を踏まえて、国内クラウド市場を3つの市場に細分化し、第一のマネジメント&ガバナンスの運営ができていない組織、第二のマネジメント&ガバナンスの運営ができる組織であり、経営者/各事業部門ユーザーの意向が強い組織、第三のマネジメント&ガバナンスの運営ができる組織であり、経営者/システム部門の意向が強い組織に対して、今後の富士通のクラウド戦略をマーケティング戦略論に基づいて提案した。特に、プッシュ型とプル型のマーケティング戦略を上手く使い分け、戦略のバランスをとり、資源を有効に活用することが重要と考える。
日本企業を取り巻くビジネス環境は大きく変化しており、グローバルレベルで激化する競争を勝ち抜いていくためには優秀な人材の獲得が必要不可欠である。そのためには、従来の人事的アプローチだけでなく、マーケティングの視点をもって採用に取り組まなければならない。そこで、本論文では「日本企業が海外(中国)で優秀な人材を獲得するための採用マーケティング戦略の構築」を目的とし研究をおこなう。なお、本論文における「顧客」は偏差値の高い大学・大学院の学生、「マーケッター」は日本企業である。
応募者(学生)の意思決定は、知名→想起→知覚→選好→行動①(応募)→行動②(就職先企業の決定)という過程を経る。募集を行っているすべての企業から就職先企業(1社)への絞り込みにあたり、学生は各段階において個人毎の基準に従って企業の取捨選択をおこなう。基準には感情(主観的要素)と事実(客観的要素)とがあるが、前者のほうがより重視されている。
応募者が絞り込みを行うために活用する情報源には会社説明会や就職情報サイトなど様々なものがあるが、企業は「人的」かつ「直接コントロール可能」なものをプロモーション手段として活用し、応募者の感情(主観的要素)に働きかけるべきである。
優秀な人材の獲得に成功しているといわれている代表的な企業について事例研究をおこなったところ、下記の「企業タイプ別 採用マーケティング戦略モデル」が得られた。
大規模:「学生の不安感を事前に取り除く」ことが重要であり、会社説明会や職種別採用が施策として有効である
中小規模:「学生との接点を色濃く持つ」ことが重要であり、採用直結型インターンシップが最適である
B2C:「選好」段階以降を重視し、企業説明会やインターンシップを通じて学生に確信を与える
B2B:応募者の意思決定過程の前半は客観的要素を中心に、後半は主観的要素を中心に、すべての応募者情報源を駆使して働きかけをおこなう
日本企業の中国への進出形態は「中小規模×B2B」が一般的である。従って、上記戦略モデルに基づき、優秀な人材を獲得するためには、すべての応募者情報源を駆使して働きかけをおこなった上で採用直結型インターンシップを実施することが望ましい。
背景
私は中国で生まれ、5歳の頃に日本に来た。中国人でありながら中国の事をあまり知らない為、今回の研究を通じてさらに深く知りたいというのが前提にある。また、少子高齢化による人口の減少により国内市場が飽和した為に成長が見込まれない。一方、中国の経済成長は著しく、かつ人口10億人の中国市場はとても魅力的である。さらに、中国は地域によって経済の発展が違う為、とても興味深い市場であるといえる。
目的
現在、人口が多く、経済成長が著しい中国の市場を魅力的と感じ中国へ進出していく企業は多い。だが、中国の市場において事業を成功させるには、なかなか困難である。しかし、失敗している企業も多い中、継続的に成功している企業も存在する。そのような企業では、どのようにマーケティング戦略を行っているのか?どうすれば、中国で成功できるのか?マーケティング戦略をどのようにすれば成功できるのか、それらを明らかにしたい。一つの手掛かりを得るために高級化粧品という新しいカテゴリーにおいてパターンを見出す。また、失敗事例をも研究し、結論を裏付ける。そこから、成立する成功条件を見出し、ひとつの足しにする。
これらを解明するために、中国で成功した代表企業である資生堂とP&Gの事例研究を行った。
また、中国市場において失敗した小林製薬、ユニクロの失敗事例を行った。各々の中国市場における代表製品に絞り、徹底的に研究を行った。
ディズニーランドとユニバーサル・スタジオは世界の二大テーマパークと言える存在であるが、入園者数で見てみても、その間には大きな差がある。実際、2008年度の世界のテーマパークの入園者数を見ていくと、上位8つのテーマパークはディズニー系列のもので占められており、ユニバーサル・スタジオ系列のテーマパークは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの9位が最高であった。日本の東京ディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパンで見てみると、2008年度の東京ディズニーランドの入園者数は約1429万人で世界3位の入園者数だったのに対し、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの入園者数は約830万人であった。
本研究では、なぜディズニーランドとユニバーサル・スタジオの間にこれだけの入園者数の差が生まれてしまったのかを検証していく。東京ディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパンを研究対象として取り上げ、経験価値マーケティングというフレームワークにて、2つのテーマパークを分析していく。
経験価値とは、感覚、感情、精神への刺激によって引き起こされるものである。従来の伝統的なマーケティングが提供していた機能的な価値とは違い、感覚的、情緒的、認知的、行動的、関係的価値を提供する。この経験価値を分析するフレームワークである、経験価値マーケティングは戦略的経験価値モジュール(SEM)と経験価値プロバイダー(ExPro)という2つの基盤から成っている。戦略的経験価値モジュールとは、Sense、Feel、Think、Act、Relateの5つの項目から構成されている。戦略的経験価値モジュールによってその製品がどのような価値を提供しているのかを評価していく。そして、戦略的経験価値モジュールを実践する手段となるのが経験価値プロバイダーである。経験価値プロバイダーとは、コミュニケーション、人間、ウェブサイトと電子媒体、空間環境、コブランディング、プロダクト・プレゼンス、視覚や言語によるアイデンティティやシンボルなどの項目に分かれている。これらの手段にて、製品の戦略的経験価値モジュールを実践していくことによって、顧客に経験価値を提供していく。
本研究では、戦略的経験価値モジュールのSense、Feel、Think、Act、Relateの5つの項目で東京ディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパンを分析し、さらにアンケート調査にて経験価値の評価を行った。また、調査結果を統計的に分析することで、経験価値と顧客のロイヤルティの関係性を見ていき、どのようなテーマパークの作り方が入園者数につながるのかに関して考察を行った。
本研究から得られた内容としては、戦略的経験価値モジュールの中のFeelが特に顧客のロイヤルティにつながっていくということであった。愛着があれば、支払意思価格や訪問意向など、顧客のロイヤルティも向上するのである。また、そのための愛着を生み出すには、それを実践するための経験価値プロバイダーに関しては、テーマパークの関連映画が重要になってくる。東京ディズニーランドならばシンデレラや美女と野獣など、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンならばE.T.やジュラシック・パークなど、映画を扱っている。これらの映画にて、一つの統一的な世界観を持たせることが経験価値として愛着を生み出すための方法となってくる。興行成績がよかった映画だけを集めて来てテーマパークを作るのではなく、テーマパークの関連映画の中でも一つの軸を持たせて、それを利用してテーマパークを作ることで、顧客の経験価値の評価も高くなる。そして、経験価値の評価が高くなれば結果的にそれが顧客のロイヤルティにもつながり、テーマパークとしての入園者数などにも結び付いていくのである。
本論文の目的は、ネット・コミュニティを用いて消費者参加型の新製品開発を行うとどのような効果が得られるのか、成功のためにはどのような工夫や条件が必要なのかを明らかにすることである。
まずはじめに、新製品開発がどのような過程を経て行われているのかをUrban他[1983]で提示された新製品/新サービスの開発プロセスを基に再度整理し、「開発プロセス」をアイデアフェーズ、戦略フェーズ、実行フェーズと定義した。
次に、製品を分類するために、延岡[2002]によるイノベーションのタイプによる分類を基に再度整理を行い、「製品特性」としてテクノロジー・イノベーション型製品、プロセス・イノベーション型製品、マーケティング・イノベーション型製品を定義した。
これら「開発プロセス」と「製品特性」を縦横の軸として9セルからなるマトリクスを作成し、各セルにおいて、新製品開発を成功させるためにはどのような情報が必要なのか、どのような情報発信を行わなければならないのか、事例と考察から導出を行った。
続いて、これらの情報をネット・コミュニティを利用して入手・発信するためには、どのような条件を満たせばよいのかについて、実際にネット・コミュニティを使った新製品開発の事例を交えながら考察した。ここでは特に、マーケティング・イノベーション型製品のアイデアフェーズにおいて極めて高いコミュニティ関与(池尾[2003])が必要となることが導出された。
これら考察に基づき、新製品開発を目的としたネット・コミュニティにおいては、特定の価値観(理念・哲学)をプラットフォームとしたネット・コミュニティ構築が必要であると結論づけた。
近年、ブログやSNSといったパーソナルメディアが急速に普及し、消費者に対して選択可能な形で提供されている情報量が急激に増加している。そして、このような消費者が発信する情報は、消費者生成メディア(Consumer Generated Media)と呼ばれ、現在では消費者が商品やサービスを購買する際の重要な情報源となっている。それと共に、企業としてはCGMをマーケティングに有効に活用していく必要性が高まっている。
しかし、あまりに急激な情報量の増加ゆえに、消費者は真に必要とする情報を探索することが困難な状況となっているのではないだろうか。そこで、企業がCGMをインターネット上で効果的に活用していくためには、その前提として、消費者の情報探索のあり方、及び、情報選好を理解した上で、消費者の情報選好に合致する形でWebサイトを構築していくことが必要であると考える。
そこで、本研究においては、CGMが特に効果的に働くと考えられる旅行業界に焦点を当て、旅行関連サイトにおける消費者の情報探索にあり方、情報選好を明らかにすることを目的とする。
論文の構成としては、まず、旅行業界や旅行関連のEC市場の現状等を概観する。そして、「ネット・コミュニティのマーケティング戦略」(池尾2003)において紹介されたフレームワークに基づき仮説を導出する。その上で、アンケート調査を実施し、旅行における消費者の情報探索のあり方、及び、情報選好を明らかにした。
具体的には、①旅行目的が異なる場合の消費者の関与度、判断力の違い、②旅行先選択過程における情報源選好、③宿泊先選択過程における情報源選好という3つの分析を実施している。これらの分析結果をふまえ、CGMを活用している旅行関連サイトの代表的事例として、「フォートラベル」及び「楽天トラベル」を取り上げ、各事例の課題を抽出した。その上で、各サイトにつき、消費者の情報選好という観点から今後どのような情報をサイト上で提供していくことが望ましいのかについて示唆を示し、本研究の結論とした。
戦後60年を経た現在のわが国の経済的・国際的地位の構築を牽引してきたのは、主として製造業であった。一方で国内需要に関しては、他の先進諸国と比較しても特異な消費者行動に対応すべくわが国独自の流通構造が形成され、他国とは一線を隠したものとなっている。そういった中で、チャネルの変化に対応したビジネスモデルを構築し、それを競争優位とした企業が、その後の業界において覇権を永きに渡って握り続ける事例が特に見受けられる。
そこで本論文ではチャネルの変化にうまく対応し、且つそれを競争優位にまで高めることの重要性を論じ、実際に過去の事例を取り上げた上で、現在起きているチャネルの変化に対してどのような対応が求められるかを述べる。
具体的には、過去の事例としてわが国の大きな変革期であった高度成長期においてGMSという新チャネルの台頭に、量産化・画一化・ブランドの維持にいち早く取り組み現在に至るまでシェア60%を誇るミツカン、特定メーカー製品をある特定地域において販売することを目的とする系列特約店が主流だった時期に、チルド配送を独自に行なうことによりグループ全体で1兆円の売上規模を誇るまでに至った雪印の両社を扱う。また現在起きている新チャネルとして、顧客の個別識別と購買履歴の蓄積による推奨販売が容易であるという特徴を持つインターネットを取り上げる。そして提言として、今後のメーカーの取り得る施策を述べる。
全世界的に小売業規模の拡大と伴い、PB商品(自主企画商品)が増加している。このような環境のなか、PBシェアが増加する要因、つまり、PB商品が成功するための要因を分析して、そして、メーカーの立場で、マーケティング戦略樹立の方向を提示する必要がある。研究方法としては、PBシェアが高い英国とアメリカの流通産業の特性及び重要な小売企業の事例分析を実施して成功要因を導出、これを基づいて、日本と韓国のPB商品状況を解釈した。この結果、PB商品成功要因は次の3つサイドから分析することができた。1)小売業サイドから分析した結果、(ローカル)集中度が高い、低価格実現を基づいた差別化PB商品の開発、ストアブランドを活用してPBブランドパワーの向上するほどPBシェアが高まる。2)消費者サイドから分析した結果では、消費者知覚リスクが低い商品(カテゴリー)ほど、PB商品に対する認知度が高いほどPBシェアが高まる。3)メーカーサイドから分析した結果では、NBの商品革新性が弱いこと(商品開発スピードが遅いこと)、商品の品目数が少ないほど、そして、NBのブランドパワー(意味性)が弱いことがPBシェアを高める要因であることを確認した。
日本の場合は、卸中心の流通構造発達されてきて、小売業の集中度が低いことがPBが低迷した主な要因であった。韓国の場合は1996年流通完全開放後、財閥の小売業参入によって、割引店が急伸長しているのがPB成長率が高い要因であった。PB商品が成長している市場状況で、メーカーは集中度が高い、交渉力が低い小売業と協力を注目して、生産柔軟性を高めながら、PB商品生産によるシナジーが得られるマーケティング戦略樹立が必要であることが分かった。
近年、わが国の首都圏では、多くの高級レストランが店舗数の拡張を行っている。その背景には、高級レストラン市場の成熟による競争の激化、消費者が企業から個人へ変化したこと、そしてその消費者自身が成熟し、ニーズが多様化していることが考えられる。
そうした、外部環境に適応するために、店舗数の拡張を行っている高級レストランだが、本来、高級レストランとは、提供する財・サービスともに水準の高い品質を提供することで高価格帯を維持できている。その高い品質とは顧客の要求に忠実であることが必須であり、製造業に比べモジュール化が難しい。
そしてそれは、その財・サービスを提供する構造の問題であると考える。本来、レストランで提供される財・サービスは提供者と消費者がサービス提供の場に同時にいなければならず、その質は属人的になりがちである。そのため、レストラン業において、質を均一化するには、顧客満足を維持しながら、その提供構造をモジュール化する必要がある。
そうした高い顧客満足度を維持したまま、その財・サービスのモジュール化を行うには、常に顧客のニーズの変化に応じてインテグラル型(すりあわせ型)で調整を行いながら高度なモジュール化が必要であると考えられる。
最適なモジュール化の程度が、各レストランの規模、市場の成熟度合いとの関連性を成功しているレストランの事例を3つ取り上げ検証することを本論文の目的とする。その際には、レストランの店舗数拡張の市場戦略および、運営方法(具体的には財・サービスの提供構造)にも重点を置き、その後との関連性を探る。
本論文では首都圏の高級レストランのみの調査だが、その研究結果はその他の地区のあらゆる業態の高級飲食店についても当てはまると考える。
近年、「プレミアム」や「プライム」という言葉を冠した商品が、あらゆる市場で近年増加した。その中でも、食品などを中心に数百円程度の価格帯における低価格なプレミアム商品がにわかに増加している。自動車や腕時計、洋服などの嗜好品・贅沢品などには以前から製品カテゴリの中で高額のプレミアム商品というものが存在していた。近年の特徴は、ビールやアイスクリームなどの食料品、ティッシュやシャンプーといった高級とは縁遠そうな日常品においてプレミアム商品が増えており、その中からヒット商品が生まれている。スタンダード商品との価格差はわずか数十円?百円程度。そのような、ちょっとした贅沢は高所得者だけでなく、一般の消費者にも購入が広がっている。
その一方で、家計の消費支出は近年減少傾向にあり、日常品の市場においてはPB(プライベートブランド)と呼ばれる小売店独自ブランドの低価格品が一方でブームを起こしている。このように景気が後退し、消費者の財布の紐が固くなり家計の消費支出が低調にもかかわらず、プレミアムブームとも言える現象が起きているのはなぜだろうか。どのような消費者が、どのような価値を求めてプレミアム商品を購買するのだろうか。本論文ではこの低関与プレミアム商品の購買規定要因を明らかにすることを目的とする。
どの様な消費者が、どの様な要因で購入するのかを明らかにすることで、多くの成熟した低関与な日常品の市場において消費を刺激する上で重要であると考える。
この問題意識を明らかにするために、これまでの日本国内の消費傾向の流れを整理すると共に、近年の低関与プレミアム商品の事例を取り上げ、消費者行動における価値と消費の関係についての先行研究を整理する。そこから、低関与商品におけるプレミアム商品の購買行動について消費者が求める価値の側面から分析モデルを構築し、仮説を導出する。その分析モデルに基づき、アンケート調査を実施し、その結果を分析し消費者の購買規定要因を明らかにした。具体的には、低関与プレミアム商品を機能性重視商品と意味性重視商品に分類し、どのような消費者において、どのような要素がプレミアム商品のWTP(Willingness To Pay)を高めるかを分析した。分析対象として、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」に代表されるプレミアムビールと、王子ネピア「鼻セレブ」に代表されるプレミアムティッシュを取り上げた。
結論としては、機能性重視商品であるティッシュにおいては、女性が心理的・社会的価値がプレミアム商品のWTPを高め、プレミアム商品に対して高いWTPを示していることがわかった。また、意味性重視商品のビールにおいても、ミドルユーザーが心理的・社会的価値、特定のオケージョンがプレミアム商品のWTPを高め、高いWTPを示していた。したがって、機能性重視、意味性重視双方の商品において心理的・社会的価値がプレミアム商品の購買では重要であり、特に女性消費者においてその傾向が見られるというのが結論である。
以上の分析結果と現在の消費の特徴を踏まえて、「ターゲット」「コンセプト」「差別化」の観点から、企業におけるプレミアム商品の戦略の方向性を提言し、本研究を結んでいる。
インクスのコンサルティング事業である、開発工程ソリューション・サービスを今後さらに成長させるために、受動的な営業活動ではなく、能動的な営業活動を展開していく必要があるという課題を設定して、本研究を進めた。
会社の概要、歴史、事業の説明をしたうえで、上記課題を抽出し、産業財の特徴を先行研究として研究した。
次に、能動的な営業活動を行うためには、今までの顧客の購買行動を分析する必要があると考え、Webster&Windの“a general model for understanding organizational buying behavior”というモデルを分析の枠組みとして使用し、受注顧客40社の分析を営業担当者に対するインタビューをもとに行った。分析を行うことで、顧客がインクスのコンサルティング商品を購買する際にどのような影響を受けているのか把握することができた。しかし、Webster&Windのフレームワークを使用した分析のままでは、実際に営業担当者が行動指針として実践的に使えるものではないことが分かった。
そこで、WHO(誰に)WHAT(どのような情報を)HOW(どのように伝えるのか)という3つのシンプルな切り口で行動指針となる枠組みを提案することで、より実践的な提案を行おうと考えた。
まず、組織的な意思決定プロセスをリードする役割を担うキーマンと組織タイプとの掛け合わせによって、アプローチすべき対象を探す(WHO)。次に、伝えるべき情報は、ポジション、各人の関与度・判断力、接触できない重要人物がいるか、という3つのポイントで導き出す(WHAT)。最後に、どのように情報を伝えるかは、各人の関与度と判断力によって決定する(HOW)。
以上から実践的な行動指針の枠組みを作成することができたと考える。しかし、完成形だとは考えていない。顧客の購買意思決定に影響を与える要因が変化すれば、また新たに新しい問題がでてくるからである。しかし、本論分の枠組みをもとに行動や戦略を考えることで、何が不足しているのか、新たな問題はどこに位置づけられるのか考えることができる。したがって、今後もこの枠組みを使って考えることで、枠組みを見直して精度を高めていきたいと考えている。
製造業において、日本企業は世界に誇る技術とものづくり力を有しているのに、なぜ高級感を生み出せないでいるのか。本文は、主に女性のハンドバッグを対象に、この「高級感」というキーワードを軸に、日本の企業戦略の今後の在り方について一石を投じるものである。
本文は、次の4章で構成されている。
まず、第1章において、日本におけるバッグ・革小物の市場規模の推移やその中でのインポートマーケットの動き、各主要国のキログラム単価など、市場全体で起きている現象を考察することから始める。
第2章では、日本の女性消費者による海外ブランドの購買状況や、各ブランドに対するイメージといった消費者の実態を把握する。
そして第3章では、そうした現象や実態の裏でいかにして高級なイメージが生まれるのか、海外ブランドを事例にそのメカニズムを分析する。
最後に、第4章で日本のブランドについても検証しながら、高級ブランドを生み出せない背景や障害となっている要因を探り、それらを克服するためにはどうするべきかを提言する。
近年、日本の携帯電話市場は、目覚しい成長と進化を遂げてきた。「iモード」や「カメラ付きケータイ」など、世界初のサービスを次々と展開し、世界をリードする先進市場としての座を長年維持してきたのである。また、デジタル家電分野におけるグローバル競争力はいまだ世界を謳歌しており、自動車とともに、グローバル市場における「技術立国・日本」の存在感を一層強いものにしている。しかしながら、グローバル市場における日本の携帯電話機メーカーの存在感は極めて薄い現状である。その一方で、韓国の携帯電話機は、欧米のみならず、中国やロシアなどの新興市場において高級ブランド戦略の奏功により、「富の象徴」として認識されているとの声も聞こえてくる。世界シェアをみても、韓国の携帯電話機メーカーであるサムスンやLGは、3位と5位を記録している。(2006年基準)日本のメーカーとは対照的な好調ぶりといえる。
マイケル.E.ポーターは、彼の著書『国の競争優位』のなかで、国の競争優位を決定するものには4つの要因が存在するという。それは、技術やインフラのような「要素条件」と、国内市場規模や洗練され、要求水準の高い買い手、需要成長のスピードといったような「需要条件」、国内市場で激しい競争が行われているかどうかなどのような「企業戦略・競合関係」、最後に、関連産業の技術力の有無といった「関連・支援産業」、この四つの条件が国の競争優位を決める決定要因であるとしている。また、これらの要因が相互作用を行うことで国の競争優位が実現されるというのである。
このことを踏まえ、日本の携帯電話市場を眺めると、世界トップレベルの技術力を有しており、世界第2位の市場規模の多くの要求水準の高い先進ユーザーを抱えている市場であることがわかる。さらに、携帯電話機メーカー数は世界で最も多い10社を抱えており、部材メーカーのグローバル競争力も極めて高いレベルにある。にもかかわらず、日本の携帯電話機メーカーのグローバル競争力は低下している一方である。その反面、韓国の場合は、国内市場の小ささと、当初技術力を保有していなかったにも関わらず、グローバル競争力を確保することができた。
それでは一体、両国の携帯電話機メーカーの競争力の相違はどこに起因するのだろうか。また、なぜ日本の携帯電話機メーカーはグローバル競争力を失ってしまったのだろうか。
本稿では、このような問題意識の下、まず、日本の携帯電話機メーカーのグローバル競争力低下の要因を分析してみたいと考える。次に、世界で最も進んでいると言われる日本の携帯電話市場の進化プロセスを概観し、そこで繰り広げられてきたマーケティング・イノベーションというプロセスを考察するとともに、そのような市場の進化とマーケティング・イノベーションがなぜグローバル競争力に結びついていないのかに関するジレンマを明らかにしたいと考える。
現代の世の中は様々な製品で溢れ返っている。数多くの製品が発表されては厳しい競争の中消えていく。そんな中で消費者の心を捉え、ヒット製品と言われるようなものも存在する。このような製品はどのようにして生まれてくるのか。何故ある新製品はヒットするのか。その新製品のアイデアやコンセプトはどのように見出されるのか。そしてそれはどのようなプロセスを経て売れるような製品となっていくのか。こういった新製品が生まれるまでのプロセスがどのようになっているのか、そしてそこに共通の要素やパターンがあるのだろうか。これらの疑問を少しでも明らかにして行くことがこの論文の主旨である。
新製品開発の中でもその開発の原点となる、アイデア創出、またそれらの抽出とコンセプトとなるまでの経路は新製品を開発する際に大変重要なステップである。このアイデア創出だけを見ても新製品は消費者の声をヒントに生み出されることもあれば、技術革新によって製品化されることもある。このように新製品開発プロセスには決まったやり方がなく、また必ずしも成功するプロセスというのは明らかではない。そこで、新製品開発の進め方を過去にヒットを飛ばした新製品の開発事例と理論とを比較することで明らかにする。まずは従来の研究を基に新製品開発のプロセスを理解する。次にこの理論を尺度として近年成功したと言える、ヒットを飛ばした製品の開発プロセスに当てはめてみることで、現代における成功するための新製品開発プロセスの特徴やヒントとなるものが何であるかを探っていく。
わが国のサービス業、特に接客業は、往々にして世界から高品質だという評価をもらっている。日本に来た外国人が、ちょっとした買い物をしても無料で丁寧なラッピングをしてくれることに驚いたという話はよく耳にする。しかしながら、こうした「良きサービス」の生産性が低いのも事実で、欧米と比較しても明らかであった。本論文ではこの生産性の低さを、高コスト高品質を受け入れるマーケットが大きくなかったこと、効率化が進められなかったこと、サービスを提供する組織を横展開(フランチャイズ化)することが出来なかったことが原因と考える。そしてこれらは突き詰めると、ターゲティングの問題とサービスを提供する構造の問題と言い換えることができる。
サービスには、無形性、変動性、消滅性という特徴以外に不可分性という特徴がある。サービス提供者とサービスとは切り離すことができないという特徴だ。このことは、サービスの提供構造がターゲットである顧客と密接しているということを示している。製造業と異なり、サービス業は「提供構造」がマーケティングに非常に強い影響を及ぼしていると考えられる。本論文では、この「提供構造」を東京大学の藤本教授の研究している「アーキテクチャー分析」を通して、その構造と市場戦略との整合性を解明したい。そしてどのような市場環境下においてどのようなアーキテクチャーが適切なのか条件付けを行なうことを本論文の目的とする。
日本経済の規模を維持、或いは拡大するためには、①国内市場への対応と②グローバリゼーションへの対応が不可欠である。また、海外のブランドのランキングを見た場合、電気関連の製造業など名前を連ねる日本企業がある。しかし、嗜好品に該当する企業の名前は浮上してこない。グローバリゼーションが欠かせない今後のことを考えた場合、ブランドの浸透度合を深めることは重要な課題のひとつとして考えられる。
消費者購買行動の観点から、消費者の製品選択と店舗選択の相互関連を二つの軸で示す。つまり、①製品に対するこだわり度合いが高い(非最寄品)/低い(最寄品)と②店舗へのこだわりの度合いが高い(非最寄販路)/低い(最寄販路)という分類の仕方である。なお、本来は連続的に変化しているものではあるが、説明の便宜上上記のように分類した。
これをもとに、まずはじめに各時代の製造業・流通・消費者の関連性の変遷から、消費者は購買行動の規定のもと、どのように製品へのこだわり・店舗へのこだわりを持っていたかを探る。時代区分は、①明治初頭から1900年代前半の戦前②戦後及び1960年代③1970年代④1980年代⑤1990年代⑥2000年代の六つとする。
次に、資生堂を事例にあげて、各時代における消費者の購買行動に対して、実際企業側はどのような戦略を打っていたかを検証する。このことによって、戦略が成功したのか、失敗したのかを探る。なお、資生堂を事例に挙げたのは、①グローバルに活躍する企業であること②現在の国内市場戦略が成功を収めていること③化粧品事業は零細としてのスタートだったにもかかわらず今日ではトップシェアとしての存在感を放っていること④企業ブランド及び製品ブランドの両方の戦略をとっていることから選択した。
最後に、この理論研究及び事例研究により、本編は企業名ブランドが有効か否かに関して、どのような場合に有効に働き、どのような場合に有効性を持たないかを、この事例の範囲内で検証したものである。また最後に提言として、企業ブランドと製品ブランドの併用戦略に関して記している。
インターネットに代表されるデジタル情報技術の発展により、個人や家庭へのデジタル通信端末が急速な勢いで普及している。この動向は、インターネットを利用した通信販売(以下ネット通販)の成長を後押しする要因であることは言うまでもない。
しかしネット通販で取引される商品カテゴリーを見ると、日常食、とりわけ生鮮食品はネット通販には向かない、という通念が広く流布している。なぜならば、生鮮食品には、人間の五感(臭覚、視角、味覚、聴覚、触覚)を使い、現物を持って品質や商品を判断する、という購買選好が存在するからである。とりわけ日本人にはその傾向が強い。
したがって本論文は、生鮮食品に注目し、ネット通販に向く商品とはどういった特性を持つのかについて、仮説実証型分析を施し、どのような消費者の属性がネット通販での購買選好を規定するのかを探索発見型分析により明らかにした。そしてさらに、特定の商品特性と特定の消費者特性の結合が、ネット通販での購買選好にどのように影響するのかを明らかにした。
結果についてはまず、商品特性としては、消費者はバラツキの大きな商品を購買するときほど、ネット通販での購買を選好せず、商品の標準化度が高ければ、ネット通販での購買を選好するということが判明した。
さらに、腐りやすい商品、取り扱いの難しい商品を購買するときほど、ネット通販での購買を選好しない。
次に、消費者特性としては、以下の2点が導かれた。
① ネット通販経験が長くなるほど、消費者はネット通販での購買を選好する。
② 消費者が商品の産地や生産者について気にする(以下「生産者ブランド志向」が高い)時ほど、ネット通販での購買選好は低くなる。
加えて、商品特性と消費者特性との交互作用効果としては、
① 商品特性である「標準化の低さ(バラツキの大きさ)」と、消費者特性である「ネット通販経験」の長さが結合すれば、ネット通販での購買選好は高まる。すなわち、ネット通販歴が長くなるほど、商品において必要とされる標準化度は低下する。
② 商品特性である「標準化の低さ(バラツキの大きさ)」と、消費者特性における「生産者ブランド志向」の高さが結合すれば、ネット通販での購買選好は高まる。すなわち、生産者ブランドを気にすればするほど、必要とされる標準化の程度はさらに低下する。
以上のように、未だ実証研究の乏しい領域において、非常に興味深く、今後、ネット通販事業を展開する事業者にとって大いに意義のある結果を得ることができた。
近年の健康食品市場は右肩上がりに成長を続け、2006年には約2兆円の規模といわれており、その中でも特定保健用食品(通称トクホ)市場は成長著しい。公衆衛生の改善や医療の質的向上による人口高齢化の進展、それに伴う疾病構造の変化、感染症による死亡率の低下や死亡原因において生活習慣病(糖尿病、高血圧症、高脂血症、脳卒中、心臓病)が増加傾向にあることを背景に消費者の健康に対する意識の向上という変化が当該市場を牽引していると考えられる。その変化に対応するように国家の取り組みとしても2002年の健康増進法の制定、医療費の高騰を抑制することを目的としたセルフメディケーションの促進等が行われている。加えて、インターネットの普及が消費者の保有情報量の増大や電子商取引金額の増大を招いており、消費環境は著しく変化している。このような環境の中、企業は当該市場に対して業界を越えて顧客の獲得に乗り出し、その競争は激化の一途を辿っており、各社は自社製品の特徴を消費者に訴えるべく新しい素材の探求に余念がない。しかしながら、健康食品は実際に使用しても品質の違いがわからない信用財としての側面が強く、製品特徴の訴求が困難を極める。この点からも競争激しい当該市場に対して、企業がいち早く顧客を獲得する為の課題の一つには、消費者が行動レベルで製品購入に至るまでの態度レベルでどの製品情報を重視しているのかを含めた購買プロセスを知り、即座に対応していくことが挙げられる。如何に素晴らしい素材を探し出したとしても、品質がわからない分、顧客獲得に効果的な訴求点を知る意義は大きい。
本論文では、健康食品に携わる企業のマーケティング担当者に対して、どのような消費者がどのような製品情報を重視するのか、そしてどのような製品情報を重視する消費者がどのような購買行動をとるのかを知ったうえで、それに対応するマーケティング戦略の立案に示唆を与えることを目的としている。調査においては年齢・性別の偏りなく広くデータを回収する為に分析対象製品をトクホの存在するカテゴリーの飲料・食品に置き、消費者調査を実施した。その際、分析モデルとして設定した、態度レベルで健康への関心、ライフスタイル、購買関与度・品質判断力の各々と重視度の関係を、そして態度レベルから行動レベルで重視度と計画購買、想起購買、衝動購買の各々の関係を分析した。
結果、健康への関心と重視度で5個、ライフスタイルと重視度で2個、購買関与度・品質判断力と重視度で14個、重視度と計画購買、想起購買、衝動購買で7個の関係を発見した。
結果を踏まえ、それらの関係の裏にある「健康への関心・不安」をキーとして、消費者の製品情報に対する重視点とその購買行動の傾向、それに対応するマーケティング戦略立案への示唆を最後の結論及び提言で述べている。
今日、消費者社会の中で、消費者の得る情報は、インターネットの登場により、飛躍的に増えた。インターネットという、無尽蔵の情報データベースが誕生したことにより、企業は消費者が手に入れる情報を管理することができなくなってきた。消費者を理解する上で、消費者がどのように情報を取得するかを理解することが大きな課題となってきたと言える。 近年携帯電話の普及とともに、携帯電話を使ったインターネット接続による情報探索という新しいメディアが普及した。直感的にも、いつでもどこでもインターネットという無尽蔵のデータベースに接続できる環境がそろったことは、消費者の行動に大きな変化をもたらすのではないだろうかと、問題意識が浮上してくる。
消費者の情報探索行動は、消費者行動論の文脈では、購買意志決定過程における選択行動研究として、多くの研究がなされてきた。しかし、これら研究の中では、情報源として情報を伝達するメディアの選択決定過程についての研究は少ない。
本研究では、消費者の情報源としてのメディア選択行動について、購買決定過程研究および消費者の選択問題研究をベースに、選択決定過程の解明を行うことを目的とした。この目的のために、仮説および概念モデルの構築を行った。パソコン・携帯電話併用ユーザーを対象に調査を行い、パソコンインターネットとモバイルインターネットの評価および選択を相対的に比較し、実証分析を行った。
実証分析の結果から、消費者は情報源メディアを、情報量とユビキタス性という2次元で知覚し、評価を行っていることが示唆された。情報量に関する評価はパソコンインターネット選択に正、ユビキタス性に関する評価はモバイルインターネットに正の関係を持つことが示唆された。情報探索目的により、情報源メディア選択行動は異なり、事実情報探索にはパソコンインターネット、評価情報探索にはモバイルインターネットが選択される傾向があることが示唆された。また、状況要因であるユビキタス・コンテクストの影響では、状況的制限によってよりモバイルインターネットを使う人は、モバイルインターネットに対するユビキタス性評価が高いことが示唆された。情報源メディアの評価では、情報量とユビキタス性という2次元で知覚されていることがわかったが、それぞれの属性評価の重みづけは、目的によって、また、コンテンツ自体の特性と商品の特性によって、変化することが示唆された。
これら、本研究結果から、今後の企業がマーケティング・コミュニケーションを行う上での、これら情報源メディアの位置づけをどうするべきかの提言を行う。
2000年にネットベンチャーブームの終焉と呼ばれる時期を経てから5年、インターネットというツールは確実に消費市場に浸透し、ネット情報を積極的に活用する消費者が新たな商品の売れ筋を作る時代になった。またこれに対して企業は、テレビを中心とする受動的メディアを活用した従来マーケティングに限界を感じ、最適な手法を探索し始めている。消費環境、ひいては企業のマーケティング環境がこのように大きく変化する中、ECサイトはその波の中心的存在として試行錯誤を続けている。従来多用されてきたテレビなどの電波マス媒体とは異なり、まさに顧客の能動的行動によってのみアクセスが行われる媒体であるため、主にはプルマーケティングが展開される環境にあることから、今までECサイトの最大の課題は「集客」であり、そのための「認知獲得」に各社しのぎを削っていた。しかし一方で、“第2世代”といわれる新規参入組のネット関連企業が次々に上場し台頭をみせており、今後「集客」や「認知獲得」だけでは競争に勝って生き残っていくことはできないであろう。成長期に差し掛かるネットショッピングビジネスにおいて、その延長線上には「ロイヤルティ醸成」という本格的な市場の課題が大きく掲げられるはずであり、ネットを介したマーケティングアプローチを企業が確立していく上で、最も効率的な顧客を獲得し得るこのステージのルールを知る意義は大きい。
本論文では、ECサイト運営者が、顧客に対してどのようにサイトロイヤルティを醸成すべきか、というテーマでサイトロイヤルティ醸成の構造を明らかにしながら、ロイヤルティ醸成を切り口としたECサイトの成長戦略を提示することを目的としている。顧客意識や行動パターンの把握を出発点にすることなくしてサイトロイヤルティを戦略的に醸成することは不可能であると考えるため、消費者調査を実施し、その行動と意識の事実を把握した。
その結果、ロイヤルティサイトを選択する際に消費者が検討する7つの要素、またロイヤルティ醸成に実際影響を与える3つの要素を発見した。また、より具体的なロイヤルティ理由の影響を知るために、消費者特性を媒介変数として因子の影響力の変化を把握し、前述の影響要素以外にも、消費者特性、特に年間ネットショッピング頻度の違いに属して特徴的な影響要素があることを明らかにした。
以上を踏まえた上、筆者が仮説で設定した2軸によるロイヤルティサイト分類を検証した。この際仮説として設定したのはサイト情報に対する“行動的成分”として「購買関与度」、また“認知的成分”として「自己表現度」の2軸である。この2軸により4つのロイヤルティ醸成タイプを得、各々の特徴的ロイヤルティ理由や消費者像を把握することで、分類別ロイヤルティ醸成構造を明らかにした。
これら消費者視点にたったロイヤルティ醸成構造を把握した上で、次にロイヤルティ醸成タイプ別に、企業の対応を探るべく事例研究を行った。事例研究にあたっては、1)企業概要とサイト業績2)サイトの小売としての機能を把握するためのバリューチェーン3)消費者調査の結果期待されているロイヤルティ施策についてどのような対応をおこなっているか4)収益源やその増強はどのような仕組みになっているか。こうした4点について整理・分析を行い、成長につながるロイヤルティ施策の鍵を明らかにした。
以上の結果を踏まえて、本論文の最後に、サイトロイヤルティを醸成し成長へと導くにあたって、消費者の価値観を視野に入れていくことの意義や戦略ターゲットへの対応を、またロイヤルティ施策を実施にうつす際の収益構造上の一貫性の重要さなどについて結論と提言を述べている。
(3つの目的)
供給過剰にある賃貸マンション市場において、コンセプトマンションが割高賃料でありながらも競争力を維持している。しかし厳しい競争環境の中で競争力を維持するためにはコンセプトマンションにおける消費者行動を的確に把握することが必要不可欠であると思われる。
[目的-1] 賃貸の物件タイプごとにどのような項目が重視されているのか
[目的-2] 消費者はどのような物件を比較検討の対象としているのか
[目的-3] 賃貸と購入の場合において物件タイプに関連性があるのか
(3つの仮説)
目的を達成するために供給側である企業(8社)と、需要側である消費者(12人)の双方にインタビューを実施した。そこから得られた3つの仮説を検証するために消費者アンケート(275人)を実施したが、アンケートは賃貸を選択する際の基準に焦点を絞ったため、M不動産が実施したCS調査を分析し、最終的なマーケティング戦略においては、契約時と入居後の消費者の動向を補足した。また仮説において能動型とは立地に左右されず積極的にコンセプトマンションを選んでいるタイプの人たちのことを指し、受動型とは立地を選択した後、結果的にコンセプトマンションを選んでいる人たちのことを指している。
[仮説-1] 能動型と受動型で重視項目が異なる
[仮説-2] 能動型と受動型ではターゲットが異なる
[仮説-3] 賃貸と購入の場合の物件タイプに関連性はない
(3つの結論)
能動型(=こだわり志向)では『開放感』が重視され、受動型(=高級志向)では『デザイン性』、『実用性』、『街・セキュリティ』が重視されていた。そして能動型と受動型では全くターゲットが異なっていた。また賃貸におけるこだわりが購入においても何らかの影響を与えていることが明らかになった。
[結果-1] 採択
[結果-2] 採択
[結果-3] 棄却
郊外百貨店は現状明らかに苦戦している。日本経済の低迷による家計消費支出の抑制が影響していることに加え、規制緩和による他業態の新興、消費者の志向・態度の多様化、情報技術の活用による消費者と小売業との情報の非対称性が弱まったことも大きく影響を与えていると考えている。
多様化した消費者に百貨店も近年さまざまな手法を採ってきた。ニュータウンブームに代表される人口の郊外化に合わせるように80~90年代に百貨店業は出店を郊外にシフトさせてきた。そして近年小売業態は商業人口の多い、都心へ投資を再度集中させたというのが最近の大きな流れである。
それでは経営資源のある程度の規模を占める郊外型百貨店に対して、百貨店業は今後どのように存在させていくか必要があるのだろうか?これが本研究の問題意識である。
調査手法として、都心から電車で1時間弱といういわゆる郊外の立川地域、浦和地域を選択し、ポスティングによる世帯への配布と、郵送による質問表の回収を行った。
結論としては、まず百貨店に対する重視項目が5つに要約されることが判明した。施設重視、ファッション性重視、価格重視、サービス性重視、食料品重視に要約された。また対象である郊外型百貨店については、都心型百貨店と異なり、消費者の考える重視項目にはっきりとした傾向が現れることが分かった。
郊外型百貨店に対し、消費金額が高い人ほどファッション性を重視する傾向にあり、それが年収に対し高い割合で消費する人ほどサービス性を重視する傾向が認められた。また出向頻度が高い人ほど、食料品を重視する傾向が認められ、情報探索意欲が高い人ほど施設を重視する傾向を認めることが出来た。このことは消費者が自らの価値基準で店舗選好・選択により消費を繰り返す中で、郊外型百貨店に対する重視項目が変遷していることを示していると考える。これが郊外型百貨店に対する重視項目を検定・分析した結果得られた結論である。
また重視項目の因子得点を用い、クラスター分析を行い、郊外消費者の特徴を掴み、関与の高低や購買に対する態度から4つのクラスターに分けることが出来た。
最終的には提言として、年収に対して消費金額の高いロイヤルティ顧客を増やすべく、メインターゲットにどのクラスターを設定するべきかにも触れ、今後の郊外型百貨店のポジショニングを踏まえた提言で本研究を結んでいる。
社会の高齢化がすすみ日本国内における消費者の「健康に関する消費」の総額は増加している。だが、一般用医薬品(OTC)市場は縮小傾向にある。なぜOTCの消費額は伸びないのか。
OTC市場を細かく見ていくと興味深い事実がわかる。OTC市場は15分類65効能のフラグメント市場にわけられるが、市場はプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)の長いロングライフ製品に占有されている。また各小市場における特定の製品ブランドの上位集中度も高い。市場がロングライフ製品に占有されていることから、消費者は新製品が上市されてもブランドスイッチせず、同じ製品ブランドを買い続けていることがわかる。市場が上位集中型であることから、多くの消費者は、高シェアの製品ブランドを選び続けていることがわかる。消費者はなぜPLCの長い製品ブランドを買い続けるのか。
OTC市場分析の前提として、効能別市場を「即効性」「持続性」に大別した。
即効性: 熱、痛み、痒み等の症状がおきたときに対処療法のために服用するOTC。
感冒関連薬、外皮用薬、胃腸薬、消化器官用薬、泌尿器官用薬、精神神経薬他。
持続性: 体力回復、生活習慣病予防等のために服用されるOTC。
体質改善等の目的により、継続的な服用が求められる。
ドリンク剤、ビタミン剤、保健薬、眼科用薬、循環器・血液用薬、漢方薬他。
メーカーを大手・中堅・中小で分類すると、「即効性」「持続性」の製品ブランドの保有数が異なることがわかる。大手は「即効性」「持続性」両方の製品ラインアップをもち、PLCの長短は混在している。中堅は「即効性」のラインアップが多く、PLCは比較的短い。中小は「即効性」の1メーカー1ブランドが多く、PLCは比較的長い。「持続性」製品ブランドは大手が保有している傾向にある。必ずしも大手の製品ブランドが占有しているわけではなく、中小メーカーが高シェアであることも多い。
このような市場の状況をふまえ、本研究では、OTC製品を「即効性」「持続性」に分け、消費者心理として、どのような信頼形成要素と購買決定要素を持って、同じ製品ブランドを購買し続けているのかを把握するため、「消費者は何を決め手にOTCを購入しているのか」という切り口で調査した。加えて、OTCは医薬品として薬剤師によって消費者に受け渡される製品であるため、販売者調査を行なうことで、購買行動の決定要因の補足となる検証を試みた。
消費者調査において「即効性」「持続性」製品を購買する場合の、決定要素の平均値の差を検定したところ、次の差があることがわかった。すなわち、消費者は、購買行動において、「即効性」製品を買う場合、比較的専門的知識を必要とするため、専門家の推奨を重視する傾向にある。一方、「持続性」製品を買う場合、比較的専門的知識を不要とするため、合理的理由、感覚的理由、購買前の経験をもとに自分自身の判断でセルフセレクトする傾向にある、ということが明らかになった。
また、販売者調査においても消費者調査結果を補う結果が出た。すなわち、販売者は「即効性」製品を推奨する場合、製品の効果・効能の差別化がわかる要素を重視し、「持続性」製品を推奨する場合、消費者の合理的理由、感覚的理由、経験をもとに自分自身の判断でセルフセレクトできる情報を与えられる要素を重視する傾向にある、ということがわかった。
コンビニの成長要因のうち、POSシステムによる販売管理は、売上管理、在庫管理などの会計業務に飛躍的な効率化をもたらし、商品の売れ筋や死に筋の管理などの営業面などで効果をあげてきた。現在では、全てのコンビニの各店舗とコンビニ本部はオンラインの回線で結ばれ、どの店舗で、いつ、何が売れたかを把握できるようになっている。
そのため、「コンビニで一番売れているおにぎりの具は何?」と問われれば、即座に、「ツナおにぎり」と回答できる。「先週売れたトップ10は?」と聞かれれば、「1位ツナ、2位うめ・・・」と回答することも可能である。このような単品管理のデータを用いて、売れない商品をカットして、新商品を投入するという意思決定を繰り返し行い売場の効率性を高めている。
POSで管理する販売データは、商品の単品の販売データに関しては非常に長けている。一方、例えば、「おにぎりを買う人は、1度に何個買う人が多いの?その分布は?」や「おにぎりを2個買う人の具の組み合わせで最も多いパターンは?」と聞かれてもすぐには答えられない。このように購入商品間の分析が不足していることが、本研究で明らかにしたいと考えた問題点である。さらに、その購入商品間の分析結果から、何らかの法則性や規則性を発見することで、店頭マーケティングや新商品開発につなげる示唆を与えることができないかというのが次の課題である。
従来は、数十万ものPOSデータを分析することは物理的に不可能であったが、現在は、コンピュータの高性能化、解析ソフトの高度化によりデータマイニングの手法を使用することが可能になった。データマイニングを使って、不特定多数の個人個人が選択した買物履歴のデータを分析することで、1人1人の個人の購買データの分析とは異なる消費者行動の新たな法則や傾向を探ることを本研究のテーマとしている。
前職の輸送機器メーカーにおいて主に商品企画の職務に携わった経験から、私は製造業における商品企画業務について、その重要性について目の当たりにした。それは、ある商品が上市する際、その商品の市場においての成功・失敗の要因のほとんどは、商品の企画段階で決定付けられていると感じたからである。
特に輸送機器メーカーでは環境対応のエンジン・動力開発などの先行研究や、製品の試作自体に巨額の投資が必要とされ、開発の後戻りは損失として大きい。またエレクトロニクスなど技術変化の早い業界では、プロダクトライフサイクルがますます短期化しているなかで、いかに新商品のヒット率を向上させるかは、企業にとって重要な課題であるといえよう。
本研究ではこのような問題意識のもと、現在急速に伸びつつカーナビゲーション市場に着目した。道路が複雑であるなど日本にはカーナビが普及した背景があるが、2003 年の国内出荷台数は、294万台であり、2003 年の日本の国内乗用車販売台数(軽自動車を含む)は446 万台と比較しても、新車の半数以上に装着されていることが推定できる。
また、カーナビゲーションはITSやトヨタのG-Bookを代表とするテレマティクスなど車の情報化との関わりが大きく、各自動車会社ではカーナビを単なる道案内の道具から、ITS車載機器の中核と捕らえるようになってきており、新車に工場の組立ラインやディーラーで装着される、純正比率が4割にまで高まっている。
このように急激に市場が変化しつつある業界の競争構造をポーターの戦略グループを分析のフレームワークを用い整理して、そのなかで特にパフォーマンスの高い2つのタイプの異なる会社、パイオニアと松下電器産業を取り上げ事例研究の対象とした。
2社は、OEMと市販品という全く異なる市場を中心に、相対する戦略をとりながら成長してきており、分析対象として興味深い。
各メーカーがなぜそのような高いパフォーマンスを達成できるのかについて、消費者、財の特性とも合わせつつ、特に商品企画プロセスとマーケティング戦略に焦点を当て、その成功要因を明らかにする。また、その成功要因が有効となる条件についても同時に解明していく。
痴呆症は高齢化社会の進行と共に年々増加し、2005年度の169万人から、20年後には約327万人に達すると予測されている。現在、65歳以上では13人に1人が痴呆症であり、85歳以上では4人に1人が痴呆症であるというデーターもあり、もはや他人事では済ませられない状況にある。また、東京都福祉局の調査では「家族が、物忘れが多いと気づいてから医療機関に相談するまでに、約7割の家族が2年以上かかっている」というように、家族が初期症状に気が付いてから受診行動を起こすまでには非常に長い時間がかかっている。これは社会全体に痴呆症に対する正しい理解と認識が低く、偏見や誤解が存在しているからであろう。そのために、早期の治療・ケアに対する対応が遅れており、患者や家族間の負担はますます大きいものとなってしまっている。このように社会のシステムとして、痴呆症に対する早期発見・診断・治療に対する整備は遅れており、高齢化社会における痴呆症の急激な増加は大きな問題である。
本論文では、痴呆症の患者および家族の痴呆症に対する知識・態度・行動を調査・分析し、痴呆症の初期段階における受診行動モデルを構築した。そして、一般生活者718名に対しアンケート調査を行い、もの忘れと痴呆症に対する個人の関わり方の構成要素である痴呆症関与度・痴呆症罹患性・痴呆症重大性・受診関与度・初期症状判断力の5つの因子によって構築した受診行動モデルの仮説検証を行った。また、受診意向に伴う4つのグループ間(早期に受診を促す、しばらく様子を見る、誰かに相談する、何もしない)を比較することで、「なぜ痴呆症の患者の受診行動に至るまでの期間は長いのだろうか」、「家族が最初の症状に気づいてから医療機関へ受診に至るまでの態度や行動はどのように変容していくのだろうか」、「どうすれば一般生活者の中から潜在患者を掘り起こし、医療機関へ受診行動を起こしてもらえるように出来るのか」、「患者や家族はどのように医療情報を得て何に影響されて行動を起こすのか」など、医療機関に行くまでの患者と家族の心の移り変わりと行動面に起きている事との関係性を導き出した。
そして、これらの結果を元に、現在、製薬企業が実施している痴呆疾患啓発広告を中心に痴呆症の疾患啓発活動における受診促進のためのマーケティング戦略を提言し、同時に、製薬企業の本業による社会貢献活動(CSR)についても考察を行う。
外資グローバル企業が「消費者の選択眼が厳しい」とされる日本のリテール市場に参入する際の戦略を、財のローカライゼーションという観点から分析を行った。
企業ケーススタディーにおいては、企業が日本人向けにローカライズされた製品を作り、これを鍵に売上拡大を目指していることが伺えた。
ただ、このローカライゼーションについては、ロレアルがその方針を徹底させているのに比較すると、エスティーローダーでは戦略として選択しているわけではなかった。
一方で、消費者アンケートによると、この化粧品のローカライゼーションについては消費者は歓迎の意を表しており、「ローカライゼーションが売上拡大の鍵」という企業側の仮説は成立すると言えよう。
しかし、消費者のローカライゼーション製品への使用意向は高いのであるが、実際の使用ブランドは国内の化粧品が多いということも分かった。
つまり、ここには、企業と消費者の間にギャップが存在するといえよう。
そのギャップとは、企業が化粧品について売上拡大のきっかけとしてローカライゼーションを取り入れているのにも関わらず、消費者は、その財が自分たちの肌を研究し、自分たちの肌向けに作られたローカライゼーション製品だと認識せずに、「外資系化粧品」についてのステレオタイプをもって遠ざけている姿が存在するのである。
こうした状況に対して、企業は何をなすべきか。
それは、一点、「財のローカライゼーションについて、消費者に伝わるようなコミュニケーションをマーケティング上とっていくこと」であろう。
それは例えば、現在では、雑誌の広告でも、「この製品は日本向けに開発されました」と一文のみしかいれていないような伝え方ではなく、ローカライゼーション製品であることを前面に打ち出したマーケティングを行ってしかるべきであろう。
今日、競争環境が変化したために、業界や企業を分析単位としたこれまでの競争戦略論のみでは説明できないような事象が顕著になりつつある。競争戦略論の理論研究においては、業界を基本的な分析単位として、企業間の業績格差の要因を該当する業界構造とその内部における企業のポジショニングに求める「ポジショニング・アプローチ」と、企業を分析単位として業績格差を企業が持っている資源から探ろうとする「リソース・ベースト・ビュー」の二つの主要なアプローチが存在する。これらにより企業間競争のメカニズムや競争優位の源泉についての分析が行われてきたが、これらは分析の切り口が限定されており、ある時点の短期的な時間軸で区切った分析手法と言えるであろう。しかし、今日の急速な技術サイクルや製品ライフサイクルの進展により、限定された切り口や企業の持っている資源の有効性を単なる短期的な視点だけで判断するのではなく、市場の進展にも適合させ、複合的且つ長期的に考えていく必要があるのではないだろうか。
本論文では、企業の持つ経営資源を基に戦略グループを構成し、サプライサイドの視点からの分析を行う。更に、時間の流れと共に進化する消費者の知覚・選好といったディマンドサイドの分析を行うことにより、既存の競争戦略論にない市場のダイナミズムも含めた議論を行う。これにより、経路依存的な経営資源の競争優位性が、環境変化に対してどのような対応をすることにより持続可能となるのか、何が優位性を低下させていくのか、といった企業戦略を議論するための新たな軸を創出することを目的としている。
上記の分析を行うにあたり、製品モデルチェンジの早いデジタルカメラ市場を例に取り上げる。デジタルカメラは1995年にカシオ計算機が販売した低位機種「QV-10」により、急速に一般へ普及していった製品である。半導体技術、光学技術、精密機器技術を持つ異業種のメーカーが続々と参入し現在も混戦が繰り広げられている。又、消費者の知識や経験が高まり、購買意思決定プロセスも多様化している。このような市場進展を含め、企業の持つ経営資源と他社動向の側面から複合的な視点で議論を展開したい。
東京都の場合、鉄道が都市に先行して作られた後に、その駅周辺に市街地が形成されていくという関係が極めて一般的であったため、地図をみても街の中心に鉄道駅があることが比較的多い。つまり、商業機能を中心とする都市機能がおのずから鉄道駅周辺に集まるという強い経済的動因を帯びているのである。このため、駅そのもの自体の商業的ポテンシャルは、駅利用の人の多さから考えても、非常に高い状況にあるといえる。またこうしたところから、駅による街づくりへの影響も大きいということがいえる。
今までは、鉄道会社にとってはリンク機能(輸送事業)のほうがノード機能(駅における小売事業)より上位機能に位置しているという発想が根強く残っていたために、駅における商業政策は重視されてこなかった。しかし、将来輸送人員の低下が確実に見込まれることから近年では、駅における小売事業に注目しはじめている。
また地域にとってみても、「駅」が活性化することは望ましいと考えている。駅はその地域を象徴する顔である。いまや地域間格差が広がりつつあるといわれているが、地域社会の中核をなる駅の変貌がこれから大いに刺激となって、新たな活性化の動きに結びついていくことが期待される。
このような観点から、問題設定を「駅における小売業に注目した駅のあり方とは?」とし、「駅の特性に応じた扱う商品・カテゴリー」、「駅・街特性をふまえた構成店舗・テナントミックスのあり方」を、商業集積の階層と類型や消費者買物行動の理論をもとに考えた。
日本を代表する時計メーカー、セイコーは、精度が機械式時計よりも1桁高いクオーツ時計を開発し、それはクオーツショックとして世界を席巻した。そして、このセイコーの躍進により、宝飾品としての意味合いの強い、重厚なスイスの時計産業は、世界における圧倒的な市場の縮小を余儀なくされ、やがてセイコー率いる日本の優れた技術力と大量生産による「工業品としての時計」が優勢となった。
しかしながら、その後、スイスの時計産業は、スウォッチが牽引する形で、目覚しい復活を遂げ、再び王座に返り咲いた。そして、今や立場は逆転し、日本の時計産業は、スイス勢にかなりの市場を奪われている。スイス時計産業を復活に導いたスウォッチは、派手な色使いや、毎年行われるモデルチェンジなどの仕掛けにより、消費者の購買意欲を駆り立て、大変な人気を集めた。さらに、スウォッチは、グループとして、安価でファッショナブルな「スウォッチ」で得た収入を原資として、「オメガ」、「ブレゲ」といった高級ブランドまでを傘下におさめ、しかも、それぞれブランドの意味を曖昧にすることなく、個々に存在させている。そして、スウォッチ・グループは、年間1億2000万ドルの売上があり、世界の時計市場の4分の1をコントロールしているのである。
一方、消費社会の変遷を見てみると、戦後、「未熟であるが関心は高い」という消費者が、経済成長と豊かな社会の実現の過程で、製品判断力を高めてきたと同時に関心を低下させてきたという消費者の変化がある。またそれに伴い、企業ブランドが担ってきた「信頼の印」としてのブランドの役割が低下してきたという消費者の購買行動におけるブランドの果たす役割の変化がある。
消費者の購買行動におけるブランドの役割は、大きく分けると、①識別 ②信頼の印 ③意味の3つに要約されるが、かつて製品判断力が低かった消費者は、ブランドに「信頼の印」としての役割を求めた。そして、コーポレートブランドによって、その役割は果たされた。しかしながら、製品判断力を高めた消費者は、「信頼の印」としてのブランドの役割を相対的に低下させてきた。(池尾1999)
以上のように、時計産業の栄枯盛衰と消費者の変化を概観してきたなかで、コーポレートブランド戦略を採ってきたセイコーとマルチブランド戦略を採ってきたスウォッチの明暗は、消費者の購買行動におけるブランドの果たす役割の変化と何か因果関係があるのではないかという考えに至った。 そして、本論文では、消費者行動の側面を明らかにするべく、消費者行動調査を実施し、購買関与・製品判断力を機軸に、分析をおこなった。その結果、多様な「意味」を求めるようになった消費者の変化に的確に対応できたのが、スウォッチであり、一方、セイコーは、そうした消費者のニーズに応えられなくなっているということが明らかにされた。「信頼の印」としてのブランドの役割を相対的に低下させていることに加え、コーポレートブランドのもと、あらゆる消費者を対象としてラインアップされた様々なアンブレラブランドは、消費者のセイコーに対するイメージを拡散させることとなった。これらの事実から、 今後セイコーが採るべきブランド戦略として、コーポレートブランドの位置づけを明確にし、それとは完全に切り離した形での多様な個別ブランド展開の必要性を示唆した。
昨今、わが国では経済の長期不況による景気の冷え込みや物価下落傾向から、消費者は価格に対したいへん敏感になってきている。しかしながら、消費者は今までのように価格だけが安ければいいのではなく、各々の価格に見合った適切な商品やサービスの価値、バリュー・フォー・マネーを期待するようになってきていると考える。
そのような中、わが国の多くの小売は自社ブランドのプライベート・ブランド(以下PBと記す)の育成・強化に力を入れている。もともとPB商品は、ナショナル・ブランド(以下NBと記す)とは異なり小売業が価格主導権を持ち、低価格で商品を販売でき価格競争力をつけることができる。それは低価格を実現しても、PB商品はNB商品よりも粗利率が高いように作ることが可能なためである。このように小売業にとってより収益性が高いことが小売業の積極的なPB展開を促進させる大きな理由のひとつである。
一方、価格対価値のニーズが高まるにつれ、一部の小売業では、価格対応だけでなく、他社との差別化をはかる目的で、積極的にPB展開に取り組み始めている。今後のPBのあり方の1つとして、価格競争力をつける価格対応品だけではなく、価格だけではない、より高い価値をもったPB商品の開発・提供が、小売業の差別化=オリジナリティーを生み出し消費者の継続的な購買であるストア・ロイヤリティーの向上へとつながっていくのではないかと考える。
以上は、一般の消費者だけでなく、情報技術不況や国際的なデフレ圧力等により収益を悪化させた多くの企業においても、今まで以上の経費削減や仕事の効率向上が求められているため、事業所向けの商品購買にも一般消費者と同様の傾向があるものと考える。
本研究の問題意識の原点は、小売業が「売りたいもの」と、顧客が求める「買いたいもの」とは必ずしもイコールではなく、小売サイドの収益性拡大と顧客が求める商品の組み合わせとの最適なバランスのとり方についてである。さらに、問題意識として、小売業は、ストアロイヤリティーを向上させること、すなわち店への好感を持ちながら継続購買をする顧客を獲得し維持することが大切であること。そのためにはトラフィックビルダーとしての役割をもつPB展開が必要ではないかと考える。
本研究では、MRO(Maintenance,Repair and Operation)であるオフィス用品通信販売の顧客購買履歴をデータマイニングを使って分析し、消費者購買行動に継続的に影響を与える効果的なPB戦略のあり方を考えていくことにする。具体的には、従来の価格対応型PBと付加価値訴求型PBの代表的な商品を取り上げ、購入者の購買行動の違いから今後の有効なPB展開の方向性を導き出していくものとする。
1980年代から1990年代にかけて、多くの非耐久消費財メーカーのプロモーション戦略はマス広告から店頭マーケティングへとその重点をシフトしてきた。そして、現在では、多くの非耐久消費財メーカーが店頭マーケティングを重視するあまり、その収益性を低下させているという問題に直面している。
このような問題を解決するために、私は「非耐久消費財メーカーが流通販促費を削減するためには、商品レベルでどのような条件が必要とされるのであろうか。」という疑問点を明らかにしていくことを本論文の目的とした。
本論文では、上記の疑問点を明らかにする前に、
・ 非耐久消費財メーカーの流通販促費が膨張してきた理由。
・ 非耐久消費財メーカーがおこなってきた取引制度と流通販促費の関係。
・ 非耐久消費財メーカーの流通販促費の投下と小売店頭における商品の取り扱いの関係。
を整理している。
これらを踏まえたうえで、企業として流通販促費の削減に取り組む「カゴメ」の商品や少ない流通販促費の投下でも高いシェアを維持している「日本ハム」や「P&G」の商品を対象として事例研究を実施した(これら企業の商品を分析の対象とした理由は、上記の疑問点を解決するための手掛かりになると考えたためである。)。
そして、消費者が一般に低関与と呼ばれるような非耐久消費財の購買をおこなう際に、「『ブランド』『品質』『価格』を判断基準とする。」という視点から事例分析をおこなった結果、非耐久消費財メーカーが流通販促費の削減を実現するためには、
・ 消費者が特定カテゴリーの商品間に効用の差を感じている。
・ 消費者にとって意味のある「品質の差」が小さい。
・ 消費者が特定カテゴリーの商品間の「品質の差」を認識できない。
・ 消費者にとってブランドが「信頼の印」もしくは「意味」としての役割を有しており、それが競合品よりも相対的に強く働いている。
といった4つの条件を商品が備えている必要があることを明らかにした。
残された課題として、消費者が購買の時に求める品質と消費者が当該品や競合品に抱いているブランドの役割とその強さに関して、定量的な調査を実施する必要がある。そして、その調査結果をもとにすれば、非耐久消費財メーカーは、流通販促費の削減を実行することができるであろう。
成熟化した自動車市場において、自動車の品質や性能が向上するにつれ、製品の性能面は短期間に模倣され易く、機能・性能面での差別化が難しくなっており、商品知識や判断力を高めた消費者は、「信頼の印」としてのブランドの役割から、ブランドの第三の役割である「意味」における差別化を重要視している。
自動車は、移動の手段という機能的側面を持つと同時に、自己を表現するための手段としての社会的側面も持ち合わせる。自動車の価格が他の耐久消費財に比べ下落幅が小さいのは、自己実現の手段として自動車が社会的に意味を持っているからである。つまり、自動車は所有することによりその人らしさを形成することができる象徴的商品であり、消費者は選択行動において、理想の自己イメージに近い商品を選ぼうとする可能性が高い。
高関与商品である自動車の購買行動において、消費者は自動車のどのような属性を重視しているのか、また所有する車のブランドに対しどのようなイメージを抱いているのか、さらに象徴的商品である自動車を所有することにより消費者はどのような価値(消費価値)を得ているのか、これらの視点において輸入車ユーザーと国産車ユーザーとの間に有意な差異または特異性を見出すことによって、昨今の高級車市場における輸入車シェア拡大の要因分析が可能であると考えられる。
本研究では、高級車市場における輸入車のプレゼンス拡大に伴い、トヨタ自動車が収益の柱とする高級車部門において新たなブランド構築戦略の必要性に迫られていることを背景とし、(1)
消費者の自動車購買において重視する属性、(2) 自動車に対するブランド・イメージ、(3) 自動車の所有による価値形成について先行事例研究と独自アンケート調査の分析から次の結果を得ることができた。
輸入車を購入する消費者は、自動車の「スタイル・デザイン」や自動車ブランドのもつ「ステータス性」を重視して輸入車を購入しており、その所有/使用を通じて「個性やセンスの表現」、「社会的地位・ステータス性」といった社会的価値を形成している。つまり、輸入車を購入する消費者は、自動車に対し自己表現の手段としての象徴的価値(例えばメルセデス・ベンツの場合、洗練さや有能さ)を求めており、自動車の購入に際して、「意味」としてのブランドの役割を重要視していると言える。一方、国産車(以下トヨタ車と称す)を購入する消費者は、自動車の実用的な属性(「室内の広さ」や「多人数使用」)を重視してトヨタ車を購入し、その所有/使用を通じて形成された価値は心理的価値にとどまっており、社会的価値まで至っていない。ブランド・イメージにおいても、輸入車ブランドが「洗練された」や「主張のある」といったブランド・イメージを獲得しているのに対し、トヨタは「誠実な」や「気配りのある」といった「信頼の印」としてのブランド・イメージから逃れられない状況にある。
この分析結果を踏まえ、輸入車シェア拡大の抑制と将来の安定収益源確保を目的としたトヨタ自動車による高級車ブランド「レクサス」の国内市場導入戦略の妥当性について検証してみると、トヨタがあえて信頼の印としての企業名ブランドを外し、高級車種のみを個別ブランド「レクサス」として独立させ、デザインの統一や洗練さ、高級感の表現などにより、意味としてのブランド・イメージの確立をめざす戦略は、ブランドの意味性を重要視する輸入車購入層の獲得を可能にするものと考えられ、実行に値すると結論付ける。
1990年代から盛り上がりを見せたブランドに対する様々な議論は、わが国においても研究者のみならず、実務家にとってもその重要性は増しマーケティング上のみならず経営戦略上においても欠かせない要素となっている。その原因として、競争優位性の源泉の変化(恩蔵1995)や、情報テクノロジーによる競争力の平準化(田中2001)、消費社会の変化、流通PBの台頭や業態の変化(池尾1997)など様々な側面が取上げられている。このことはブランドが関わる側面もそれだけ多岐に渡っていることを示していよう。加工食品メーカーにおいてもブランド意識のへの高まりは例外でなく、現場のマーケターへの教育から経営層まで巻き込んだプロジェクトまで、広範囲に渡った課題として捉えられている。加工食品メーカーはその財の特性上、ブランドを安全、信頼の旗印としたコーポレートブランド戦略を採用し、店頭配荷・特売に注力するプッシュ型マーケティングを主としてきた。しかし、流通のパワー増大や販促費の効率悪化などの環境変化によって、ブランド資産の活用を迫られているのである。
このように重要性の高まるブランド論であるが、議論レベルも経営視点からマーケティング政策視点まで、ブランド価値定義から評価方法までその範囲は幅広い。その為にどこの視点から考えて、どう評価してブランドを取り扱っていくべきか、実務的なレベルにおいて未だ曖昧模糊とした感があることは否めない。本研究は、消費者の購買過程にそってブランドの役割を整理し、相対的に低関与な財である加工食品にとって重要となるブランド想起と、ブランド・エクイティの一要素であるブランド・イメージとの関係に着目した。今まで知覚としてのブランド・イメージは、その下位プロセスである態度形成での関係で議論されることが多かった。しかし、低関与で日常的に簡略化された意思決定を行なっていると想定される加工食品の購買過程においては、逆に上位過程であるブランド想起との関係に注目する必要がある。企業は、広告の決定から他カテゴリーへの拡張戦略の決定、ブランド階層性の決定など、ブランド支援の為に様々な意思決定を行い様々な影響を与えている。これらの意思決定が、特定カテゴリーの購買に与えている影響を解明し、実務に有用な知見を導き出すことが本研究の趣旨である。
本研究においては、消費者が持つイメージ構造を記憶ネットワーク構造として捉え、実証研究によりブランド想起に有意な「有効ネットワーク」を導出し分析を試みた。分析結果から、ブランド想起への有効ネットワークは、カテゴリーとブランドとのダイレクトなリンケージではなく、間に他の要素が介在するインダイレクトなリンケージであること、想起のレベルによって「有効ネットワーク」の構造は異なることが明らかにされた。これらの事実から、カテゴリーとブランド間だけの適合性に着目するのでなく、間に介在する他の要素も含めたネットワークとして捉えることの必要性、自社ブランドの想起レベルによって異なる戦略をとる必要性、更にはコーポレートブランド戦略の限界についての示唆を行なった。
消費社会が成熟化し消費者の嗜好も多様化した現在、企業が維持発展を遂げていくためには新製品の開発が非常に大きな意味を持つようになってきた。特に耐久消費財の購買における日本の消費市場では、その成長過程で「未熟だが関心の高い(購買関与度が高く、製品判断力が低い)消費者が、一般的・長期的傾向として次第に購買関与度が低く、製品判断力の高い消費者に成長してきた」(池尾1999)ことによって、今後、消費者の関心を引くためには、彼らの購買関与度が高く、製品判断力が低い製品カテゴリー(新製品)を企業が作り出し、普及させていくことが必要になってきている。
この様な理由から、これまで新製品が市場で消費者にどのように受け入れられ、普及していくかということについては様々な形で検討されてきた。1969年のBassモデル登場によって、新製品普及モデルは大きな進展を遂げてきたが、その利用については、多くの場合、アカデミックな領域でのモデルの開発と既に発売された製品を用いた適合性の確認という目的に集約される。また、これらのモデルの集計水準は、市場全体であり、多様化した消費者個別の新製品採用意思決定の集合体としての記述という意味では、適合性に問題が生じてきている。
本研究では、現在の消費社会の変化を考慮し、消費者個別の集計水準における意思決定モデルの提示を目的とする。消費者の主観的な判断による新製品カテゴリーを「新コンセプト・新製品」カテゴリーと「既存製品改良・新製品」カテゴリーに分割し、それぞれのカテゴリーで、これまで従来のBassモデルではブラックボックス化されていた知名‐理解‐採用と続く消費者の行動を細分化した、「知名モデル」と「修正Bassモデル」を適用した。この結果、現在の消費社会に対する新製品の需要予測の適合性を向上し、企業が新製品発売に際して意思決定のために利用可能なモデルを構築した。ここで用いた概念は「新コンセプト・新製品」カテゴリーでは、知名>>製品理解であることを前提に、知名モデルで、消費者の新製品知名と理解の2段階の購買過程を達成する確率を表すものである。この際、消費者のうち知名者は、既購入者から情報を得ることで、当該新製品を理解する。一方、修正Bassモデルは、購買意図を形成し、実際に購買行動に至る確率を現すモデルとなる。これに対して、「既存製品改良・新製品」カテゴリーでは、知名≒理解との定義から、知名モデルが、消費者が新製品の名前を知り、製品属性を理解する確率(知名と理解はほぼ同時に達成する)を表し、修正Bassモデルは、消費者が購買意図を形成し購買行動をとる確率を表すと考えた。
更にこれらモデルのパラメーター推定のために、過去の普及研究の結果を分析し、企業が新製品を市場投入する際に設定するマーケティング変数ともいえる初期価格、販売価格トレンド、生産価格トレンド等から定量的にパラメーターを類推可能な方法を導いた。この結果、モデルの構築と併せて、企業が実際に利用可能なモデルとなったと考えられる。
実際に、これらのモデルを既に発売、普及した製品の一例である携帯電話に適用して、モデルの適合性を確認するとともに、今後の普及が見込まれる新製品であるETC(Electronic
Toll Collection System)とPDP(Plasma Display Panel)テレビに適用して、普及促進のための企業の戦略を考察した。
清涼飲料業界において自販機は最も重要なチャネルの1つであるが、ここ数年普及台数も頭打ちとなり、1台あたりの売上金額も減少傾向にある。
清涼飲料メーカーは、成長過程においてフルライン製品戦略をとり、自販機をメーカー主導流通システムとして作り上げてきた。しかし、コーヒーから無糖茶、缶からペットボトルといった消費者の嗜好や飲用シーンの変化が進み、店舗選択も自販機からコンビニエンス・ストアへとシフトしつつある。そして、その影響はメーカー間の競争へと発展し、メーカーのフルライン製品戦略を困難にし、自販機チャネルをオープン化へと向かわせている。しかし、これまで築き上げた流通システムを簡単に捨てることは出来ない。
今後の清涼飲料メーカーの課題は、「飲用シーンや競争といった状況要因を踏まえた品揃えを行い、消費者にとって自販機の魅力度を向上させる」ということになる。すなわち、広く消費者のニーズに対応するコンビニエンス・ストアに対し、自販機チャネルでは消費者個別のニーズに対応するために、「消費者の選好や状況要因によるセグメンテーションを行うことと、そのセグメンテーションごとの品揃えを行う」ということになる。
本研究は、この清涼飲料メーカーの課題に対して、探索的なアプローチであるクラスタ分析、アソシエーション・ルールの導出といった手法を中心としたデータマイングを活用して分析を進めてきた。分析の結果、課題に対して次の2つの結論が導かれた。
1.「消費者は自販機による清涼飲料の購買に一定のパターンを持っており、ある程度特定化された消費者が購買している自販機をクラスタリングすることにより、その購買パターンによるセグメンテーションが可能となる。」
2.「アソシエーション・ルールはより詳細なレベルで消費者の購買パターンを把握し、品揃え形成に有効な解を与える。更にそれは、クラスタリングによるセグメンテーションごとに行うとによりその有効性を向上させる。」
最後に、データマイニングを活用した今後のマーケティング戦略について、3つの提案を行った。1つ目が、データマイニング・プロセスのルーチン化と分析と実行による組織学習のシステム化である。2つ目が、変化のウォッチングとアドホックな分析と意思決定についてである。そして3つ目が、今後のITの進化の可能性を予測したデータベース設計についてである。
市場の成熟化を迎えた日本において、ブランドを通じた「差別化による優位性の確立と価格競争からの脱却」と「顧客と長期的交換関係の構築」は、企業にとっての重要なテーマとなっている。同時にインターネットの発達は、これまでの顧客と企業の関係を大きく変容させつつある。消費者は、インターネットの利用を通じて企業との情報の非対称性を緩和することで「賢く」なり、また、消費者自らの情報発信能力を手に入れることで企業と渡り合える土俵を取得することで「強く」なりつつある。そして、インターネットは、賢く強い消費者一人一人を結びつけ「相互に影響しあう消費者」へと変容させる。そのため、ブランド構築においても、企業と顧客の1対1の関係だけではなく顧客間関係の重要性が高まっている。
本研究では、このような問題意識のもと、顧客間、あるいは企業を含めた相互交流の「場」として「ブランド・コミュニティ」という概念に注目し、インターネット上に存在する特定ブランドに関するコミュニティの中でどのような消費者間相互行為が行われ、それがブランド構築の重要な要素であるブランド・コミットメントの向上にどのような影響を与えているのかという課題に取り組んでいる。
具体的には、デジタルカメラのネット・コミュニティを研究対象に、消費者のブランド・コミットメントの向上を促すコミュニティ特性とコミットメント向上に寄与する情報を特定し定量的に実証している。その結果、具体的には以下の事実が明らかになった。
(1)ネット・コミュニティの消費者間相互行為の中で、消費者は、製品満足、ブランド・コミットメント、他のユーザーへの親近感を向上させる。
(2)ブランド・コミュニティ(特定製品ブランドに関するコミュニティ)に限らず、ネット・コミュニティの消費者間相互行為の中で製品理解の向上や
ユーザー同志のサポートへの安心感によってユーザーのブランドへのコミットメントは向上する。
(3)ブランド・コミュニティは、他の複数取り扱うコミュニティと比べ、ブランド・コミットメントの向上の程度が大きい。
(4)ブランド・コミュニティにおいてユーザーのブランド・コミットメントが向上しやすいのは、コミュニティの同質性に起因し、ユーザーの購買や
製品に関する考え方を肯定するような文脈において、支持的な情報に遭遇しやすい可能性が高いためと考えられる。
ユーザーは、支持的情報を取得することで、自分自身のブランドに対する確信や無意識の認知的不協和を低減させていると考えられる。
(1)~(4)を踏まえ、インターネット上の消費者間相互行為とブランド・コミットメントの関係について結論づけると、『潜在的にブランド・コミットメントを有する消費者は、ブランドへの理解、サポートへの安心感を高めることにより、ブランド・コミットメントが向上する。ブランド・コミュニティは、一定のブランドへの好意を有するメンバーで構成されておりコミュニティユーザーへ支持的情報を提供しやすい環境にあるため、ブランド・コミュニティにおける消費者間の相互行為は、ブランドへの理解を促進させ、ブランド・コミットメントをより向上させる。つまり、ブランド・コミュニティは、ブランド・コミットメントを向上させる媒介の役割を果している』と考えられる。
また、ブランド・コミュニティの特性として次のことも発見された。
(5)一定のブランドへのコミットメントを有するブランド・コミュニティにおいて、ネガティブな情報が書き込まれても、ブランド・コミュニティ・ユーザーのブランド・コミットメントに負の影響を与える可能性は低い。
(6)ブランド・コミュニティにおいては、ブランド選好な支持的情報を出す人(仕組み)が必要であり、製品関与、ブランド・コミットメントとともに、「他のユーザーの役に立ちたいという意識の強い人」=コミュニティ関与を持ち合わせている人の存在が不可欠である。
最後に本研究の限界と今後の研究課題について述べている。
日本は、医療技術や医療保険制度の充実、経済的な発展に伴って栄養事情などが改善されたことなどにより、現在、世界一の長寿国となっている。そして、寿命が延びた事と時を同じくして少子化の波が押し寄せたことによって、近い将来、世界でまだ誰も体験したことのない急激な高齢化社会が到来することが確実視されている。
これに対応するために、2000年4月に、介護保険制度がスタートした。これを契機に、多種多様な企業が、今後かなりの長期間にわたって成長するであろうと見られている介護市場に参入してきており、さまざまな業種への新規参入がはかられている。しかし、その実態を見てみると、市場の大きさや成長性などに惹かれてとりあえず参入したものの、当初の目論見どおりうまくいかない企業が多数存在しており、介護市場の難しさが改めて浮き彫りとなっている。そのなかでも特に小売市場は赤字の企業も多く存在しており、厳しい経営を強いられているところが多い。
そこで、本研究では介護用品小売りに焦点をあてて、その購買プロセスを明らかにすることによって、現段階ではまだ十分に顧客のニーズにあった販売方法を確立できていないと思われる介護用品小売店に対して、より顧客にフィットするマーケティング戦略を提言することを目的に研究を行った。
介護用品の購買プロセスを明らかにするための実証方法として、本研究では実際に介護用品を販売している介護ショップ、介護用品メーカー、在宅介護を行っている人へのインタビューをおこない、介護保険のうちレンタル・購入制度が利用できる商品の場合、ケアマネージャーが商品の種類を選定し、ケアマネージャーが推薦する介護ショップの店員が実際に消費者宅を訪れて、持参した商品の中から被介護者にフィットする製品を選択するというプロセスが明らかになった。また、大人用紙おむつの購買プロセスについてのアンケートを行い、分析することで、症状や介護する側の条件によって求められる小売業の形態を明らかにした。結論として、介護保険制度の効かない商品に関して、介護を行うことがさほど困難ではない人々は主に他業態の小売店で購買を行っており、これに対して介護ショップは著しい競争劣位にあり、また介護保険制度の使える商品群の購買プロセスから展示販売は無駄なコストでしかない為、小売店を閉鎖してコストを抑えた営業所への転換を提言している。また、研究の限界として、今後介護ショップが目指すべき店舗形態を提言するにとどめ、ケアマネージャーの確保の方策などその具体的な方法にはふれていない。
ソニーのパソコン『バイオ』の躍進は目覚しい。パソコン業界に参入して約5年で業界2
位のシェアを占めるようになった。またバイオは特にB5 サイズのノート型パソコン市場において顕著な強さを発揮している。この論文では、ソニーのB5 サイズのノート型パソコン『バイオ』を取り上げ、後発として参入するときの戦略、そしてその戦略の当時の有効性、さらに現在の有効性を、消費者アンケートをもとに評価することを目的とする。
もともと潜在需要があったパソコンであるが、当時はノート型パソコンが急速にシェアを伸ばし、デスクトップ型に迫ろうとしていた。時間の問題でノート型がデスクトップ型を数量で上回るのは明らかだった。当時の消費者調査から、メモリーが
32MB以上で不満を感じる人の割合は10%未満、HDDが1GB以上で不満を感じる人の割合は約21% であった。また1996年と’97年を比較すると、インターネットの利用者が約2倍に増加しているのが特徴的である。またアンケートの結果では
B5サイズのバイオノートの発売約一年後には既に『バイオ』はトップブランドに成長している。この間のソニーの戦略を研究する意義は大きい。
B5サイズのパソコンは、その使われ方から、オール・イン・ワンである必要はなかった。またCPUやHDD、液晶画面などノート型パソコン専用のデバイスが必要なため非常に高価であったが、メーカーの技術革新の結果その価格は劇的に下落し始め、デスクトップ型との差が急速に縮まってきた。この当時のパソコンは『
OA機器』という位置付けであり、『何でもできる』必要があった。差別化要因は CPUのクロック周波数やHDDの容量であり、デザインなどは無視されていた。
そのような市場環境に対して、ソニーはバイオを投入した。それは『 AVパソコン』という『家電』と定義付けられていた。その特徴は『大きさ(薄さ)』『重量(軽さ)』『スペック』『価格(安さ)
』『付属ソフトウェア』『デザインや色、外観』『ブランド』であった。これらの特徴はターゲットを『ライトユーザー』や『ホビーユース』に絞ったことによって可能となったものであった。またこれらの特徴は相互に影響し合っているだけではなく、市場の変化、パソコンメーカーの技術革新、通信技術の発達、そのほかデジタルカメラなど周辺機器の発達といった環境要因の上に成り立っている。このような複雑に影響しあっている要素を理解して、初めてバイオが市場に受け入れられ、シェアを伸ばしていった理由が明らかになる。
これら7つの要因は『想起集合に入るのに貢献した要素』『消費者の購買に貢献した要素』に分けられる。『スペック』以外の
6つは『想起集合に入るのに貢献した要素』に当てはまるが、『消費者の購買に貢献した要素』には約一年間優位性を保った『低価格』、『 AVパソコン』としてのアイデンティティを確立した『付属ソフトウェア』、現在でも強い『ブランド』が当てはまる。特に『ブランド』は現在でも圧倒的に優位に働いている要素であった。
このように見てくるとソニーがパソコン市場に参入したときにとった戦略は集中戦略であったが、その市場の成長により『低価格戦略』『差別化戦略』となっている。また『
AV機器』と定義付けることによって競合他社の追随が不可能となったのに加え、自社ブランドが優位に競争できるようにルールを変えた。競合他社の企業資産の負債化を図ったということがいえる。
このようにしてソニーは『バイオ』ブランドの確立に成功した。しかしその確立の背後にはそれぞれの特徴があり、これらの特徴に表れている巧みなマーケティング戦略がブランドを構築したということが重要である。またバイオの今後の問題点は完全に優位性を失った『価格』と、不満の多い『処理スピード』の取り扱い。さらなるシェアの上昇には早急な改善が必要である。
市場の成長率が低く、上位寡占度が高いトイレタリー業界において市場地位が低い企業はどのような戦略を立案していけばよいのであろうか。トイレタリー業界においては、資源依存論的立場から小売業者に対する資源依存度が高いので、小売業者へのチャネルパワーのシフトが起きている。その中で、製造業者は、製品レベルでの価値提案、カテゴリーレベルでの価値提案、業務レベルでの価値提案を行っていかなければならない。市場地位が低い企業は、まず、製品レベルでの価値を訴求していかなければならない。製品レベルでの価値を訴求していくためには、参入する市場を決定し、ターゲットを明確にしなければならない。
そこで、参入する市場を決定するために、購買関与度、ブランドスイッチの起こりやすさを今回対象とする歯ブラシ、歯磨き粉、シャンプーの3つの市場で検証した。他の条件が一定の場合、購買関与度が高く、ブランドスイッチが起こりやすい市場へ参入するべきである。その理由は、購買関与度が高い市場のほうが製品レベルでの価値提案を行いやすく、市場成長率が低い業界内ではブランドスイッチが起こりにくい市場では新たな製品レベルでの価値提案を行うことが困難であるからである。分析の結果、シャンプー市場が最も購買関与度が高く、ブランドスイッチが起こりやすいため、市場地位が低い企業にも参入する機会があるとした。実際に上位寡占度もシャンプー市場が検証した3つの市場で最も低い。
次にターゲットを決定するために、行為の目的から消費者を分類した。その結果、歯ブラシ、歯磨き粉といったオーラルケアの行為の目的では能動的であるか、惰性的であるかが、シャンプーでは、「きれいに見せたい」という外向けの意向の強さである外交的か内向的かが購買行動に大きな影響を与えていた。市場地位が低い企業は、高関与層へターゲットを絞り込み、製品差別化を前提にしたマーケティング戦略を立案していくことが望まれる。その理由は、購買関与度の高い消費者は積極的な情報探索を行うので、製品レベルでの価値提案を行いやすいからである。
最後に各ブランドの戦略を概観した。この分析結果から、成功しているブランドには、歯を磨く、髪を洗うという行為の目的から派生した機能を特化し、明確に消費者に伝えており、さらに、その機能が他の目的機能をも兼ねるとう共通性が認められた。
このことから、市場地位が低い企業は、特定の機能に特化はするものの顧客層や機能を絞り込みすぎることなく、高関与層へターゲティングをし、製品差別化を前提にしたマーケティング戦略を立案していくことが望ましいと結論付けた。
メインバンクという言葉には独特の響きがある。今日多くの場面で銀行の信頼崩壊が報じられる一方、より大手といわれる銀行に資金が集中する傾向が顕著である。昨今の金融環境の変化は個人に資産運用に対する態度の変更を余儀なくさせ、これまで享受したローリスク・ハイリターンの運用は許容されない方向にある。リスクを勘案した資産運用に不慣れな個人は、自らの方向性を失い、多くの人々の行動に追随することで当座の安心を獲得しているのであろう。このような大手銀行に優位な環境のなかで、よりその存在の意義を問われているのが地域銀行である。地域に根ざしたリージョナルバンクとしてその役割を果たしているとの自負も、このような信用不安が叫ばれる環境下では空虚な妄想にも等しく、顧客離反の危機感を拭いきれない状況である。そうした離反の直接的な理由はペイオフ解禁などによるものであり、個人がまずは自分の資産を安全圏に置きたいという感情に起因しているものであろうが、より根本的には、これまで真に自分たちのポジショニングを確立してこなかったつけによるものである。
本論においては、このような環境のなか、地域銀行がいかにして個人顧客を獲得し、維持していくのかについて考察しており、そのひとつの方法として、インターネットによる投資信託の販売を取り上げている。インターネット環境の充実は、これまで参入のチャンスがなかったごく普通の個人に快適に資産運用の機会を与えるものであるが、それは同時に、リスクに対して不慣れな個人が不用意にリスクにさらされる危険性をも孕んでいるということでもある。このような状況では、多くの個人が、大手の金融機関が取り扱っているという理由で他律的な商品選択を行う傾向にあるが、実は、大手金融機関であるほど系列化が進んでおり、自らの金融グループ内でひとりの顧客を囲い込む傾向にあるため、顧客ひとりひとりの人生設計とは必ずしも適合していない可能性がある。
近年のインターネットの発展は多く変化をもたらしたが、その変化のひとつが個人の自由意思の表出機会の高まりである。これまで沈黙していたあらゆる人々が、自由な自己表現を行い伝達していくことが可能となり、情報がより効率化していくということは、現在の金融機関と個人との間の情報の非対称性も次第に解消される方向にあるということである。こうした流れが高まると、個人がより自律性を高める可能性がある。現状の情報格差による企業の囲い込み戦略に対する意識にも変化が生じ、自分にとってメインバンクとはどうあるべきなのか、またそもそもメインバンクという概念が自分に必要なのかなどという意識や疑念の高まりにもつながる可能性がある。このような変化の可能性を大手金融機関は、どの程度敏感に察知しているのであろうか。その役割の再考が叫ばれ、大いなる危機感をつのらせている地域銀行こそが、いま、この状況下で自分たちにとって何が必要なのか、また自分たちはいったい何ができるのかについて真剣に悩み始めている。
本論はそうした地域銀行に向けて書かれた示唆である。結論を要約すると、単に顧客に自己責任を押し付けるのではなく、銀行自身がリスクをとり、購買代理業者として積極的に顧客に最適の商品を選択し推奨することが重要であるとの指摘である。顧客の投資判断力の向上はインターネットによる商品購買の活性化につながるとともに、顧客自らが主体的に銀行を選択する目を養うことにもつながる。地域銀行の信頼低下が顕在化しているいまこそ、これまでのお題目の顧客主義からいち早く脱却し、真に顧客からの支持を得ることに主眼をおいた戦略への転換を図るべきである。
本論文では、自社ブランド品ではない商品を扱う外資系小売業が、歴史的に日本市場にてなかなか成功していない点を問題意識としてとらえ、商業中心型の外資系小売業の日本進出にたいして提言を行うことを目的とした。
外資系小売業の日本進出は、70年代から始まったが、その当初は自社ブランドの販売を中心とした小売業の参入だった。一方、商業中心型の小売業の進出は90年代に加速したが、そのパフォーマンスは決して高くはない。現段階で成功していると判断できる企業は残念ながら3社程度しかない。
本論分ではその成功しているタワーレコードやHMVなどのAVソフト販売店と、玩具カテゴリーキラーのトイザラスを取り上げた。
その3社の成功を文献及びインタビューから分析するためのフレームワークとして、3つのモデルから分析を行った。
1つ目は小売業の国際化要因としてのプッシュ要因・プル要因に注目し、小売業の国際化を分析するモデル。
2つ目は小売業が日本市場に参入する際の参入モードを、戦略変数・環境変数・取引費用変数から決定する、参入モードの意思決定モデル。
3つ目は小売業の組織間関係及び組織内関係と小売業の機能に注目し、その2つの要因を結集して小売サービス水準と顧客価値水準へ結びつけるモデルである小売イノベーションモデルに、国際的な視点を加味したグローバル小売イノベーションモデルである。
文献研究については、基本的に企業から顧客に対しての視点が中心となっていたので、顧客の立場から商業中心型外資系小売業を分析するために消費者アンケートを行った。そのアンケートは日本トイザラス社を対象として行った。その枠組みはグローバル小売イノベーションモデルの顧客価値水準と小売業の提供する小売サービス水準の視点から分析を行った。
文献研究と消費者調査の結果から、店舗コンセプトと顧客価値水準の一致を見出すことができ、商業中心型小売業が日本で成功するためには、①扱っている商品のニーズと売れ方がホームカントリーと日本で似通っていること・②その商品を調達するためのグローバル取引関係をすでに築いていること・③店舗コンセプトが日本の消費者に受け入れられることという3つの要因を結論として導き出した。
この3つの要因から、今後日本に参入を予定している商業中心型の外資系小売業に対して提言を行った。その提言は、外資系小売業が日本に参入するにあたり、その3つの要因をどのように判断基準として考えるか、そしてその3つの要因が日本参入時の参入モードの意思決定にどのように影響を与えるかを説明したものである。
最後に、本論分の限界として述べたのは商品依存的な結論を打ち破る例として、インターネットによる本の販売などが今後の研究対象として興味深い点と、今後の研究課題として特に国際比較やAVソフト店でのアンケート分析という具体的な提案を行った。
医学の進歩に伴い、従来ならばStigmaとして「治らない」と思われていた病気も、薬などの治療によって治る、あるいは症状が改善するようになった。しかしながら、患者あるいは一般消費者の中には、心身の痛みを感じていたり、実は何かの症状に困っていながらも、なかなか医療機関へ行こうとしないという現象が頻繁に見られる。その原因は何なのかを探るため、実際の患者行動を調査することによって、患者の「医師に相談する」という行動を阻害している要因をアプローチする。また、実際に医師に相談している患者は、いったい何がその行動の後押しをしたかをも探り、患者の医療行動のに対する選択権の幅を広げたいというのが本論文の趣旨である。
これに伴い、企業として患者あるいは医師、それをとりまく社会環境といったものにどのように働きかけていけばよいかについて提言を行う。
本論文の仮説は下記の3点である。
①患者が「医療機関に行く」という行動を起こすまでに、外的要因・内的要因によるバリア(障壁)が存在する。
②患者が何らかの行動を起こすまでに、それを後押しするような促進因子も存在する。
その1つは、患者にとっての「重要な他者」であり、もう1つは「情報」である。
「重要な他者」には、患者の行動に影響を及ぼす相手、患者がその他者の意見を参考にする相手、そして患者が励まされる相手 の3種が存在する。
③患者と、医師をはじめとする他のプレーヤーとの間には「認識の相違」が存在する。
これにより導き出される最終的な仮説は「バリアを除去し、重要な他者をも含めた患者への支援、それらのツールとしての情報があってこそ、患者の自由意志による選択・決定権ができる」 というものである。
これを検証するため、患者数の少ないために社会的認知の低い、難病であるパーキンソン病、社会的にその本当の辛さが認知されていない偏頭痛、社会的にネガティブなイメージを持たれているうつ病、尿失禁の4疾患について、実際の患者にアンケート調査を行った。その結果、仮説は支持され、疾患によってその内容は異なるものの、4疾患すべてにおいてバリアの存在が確認された。また、「重要な他者」の存在も確認され、患者の行動に影響を及ぼす相手としては、家族や医師があげられ、意見を参考にする相手としては同病の人と医師であり、励まされる相手は家族と医師をあげる傾向が強かった。なお、疾患によっては、これに薬剤師やカウンセラー、マスコミなどが「重要な他者」と成り得る存在として加わっている。
「情報」については、単独で存在するよりも、バリアを低める要因として、あるいは重要な他者と絡めた介在としての果たす役割が大きい。患者の病気に対するイメージが、誰かに相談後、あるいは情報収集後、そして医師への相談後とポジティブに変化していることから、患者が医師に相談することは評価できることであり、そのために企業としては、正確な情報を的確な相手に伝えること、社会のイメージを変える努力をすること、薬剤師と効果的な連携をとること、そして第三者機関によるチェックと情報開示により、医療の質を高める努力をすべきだと考える。
2001年1月、規制により外資系生命保険会社および国内中堅生命保険会社のみに販売が限定されていた第3分野生命保険市場が大手生命保険会社にも開放された。この第3分野生命保険とは、健康保険などの公的制度を補完することを目的とした保険群(がん保険や医療保険など)であり、医療費自己負担の増加などを背景に今後の成長が見込まれていた。ゆえに規制撤廃後は多くの保険会社の新規参入が予想され、規制により競争のあまりなかった市場が一変すると考えられた。
本研究では、第3分野でも今後のその動向が注目される「がん保険」に焦点をあて、そこでの顧客の購買行動を対象にした実証研究を行っている。分析では、「顧客に選ばれる」ことを契約時に選ばれるだけでなく、「契約後も選ばれ続けていく」ことと考え、「契約時商品選択」、そして「追加契約」や「解約」における顧客の行動に注目している。
「契約時商品選択」では、“購買関与度”および“製品判断力”の概念を用い、その高低による顧客の“重視する情報源”や“重視する内容”の相対的な違いを明らかにした。「追加契約」の分析では、購買関与度が低いときに顧客が用いる情報処理の1つ“カテゴリー化”に注目した。契約後の商品に対する評価は、それと類似度の大きい商品の追加契約検討する際、カテゴリー化によりその検討している商品の評価に影響を与えるということが確認できた。「解約」の分析においては、契約時の購買関与度を規定する要因の1つである“製品関与度”が、契約後はその高低により商品の解約理由に影響を及ぼすことがわかった。
そして、分析結果をもとに「顧客に選ばれるためのマーケティング戦略」として「新規顧客獲得」「クロスセリング」「顧客囲い込み」について提言を行っている。
日本版ビッグバンを迎え、大蔵省と日銀がコントロールしていた金融市場に自由競争の原理がもたらされた。邦銀は参入相次ぐ外資系金融機関や異業種銀行とも競わなくてはならなくなった。この動きに対して邦銀は戦略的な大型合併・統合を行っている。しかしこの銀行再編に加わらない銀行も現れ、邦銀の中で二極化が進んでいる。再編に加わらないリテールバンクを目指す都銀や地銀が、どのようなマーケティングを行い、リテール業務において差別化し競争力をつければよいかを早急に考える必要がある。
本研究はこの大型再編に加わらず、独自の路線でリテール業務に特化する銀行に要求されるマーケティング戦略を構築しようとするものである。
顧客の金融に対する学習効果は高まり、同時に生活防衛の意識も強まっており、金融機関を目的別・機能別に使い分け、選別する時代となってきている。しかし従来、銀行は一律的なマーケティングで顧客全ての満足度の向上を図ろうとしてきた。
顧客は一律ではない。銀行は顧客の選好・行動を分析し、顧客サイドに立ったマーケティングを行い、顧客の目的・機能に合わせた金融商品・サービスを、適切なタイミングで提供できることが必要不可欠である。
本研究では、その一律ではない顧客の購買行動特性を、「関与」と「判断力」を軸に分析し、選択する金融商品によって異なる「重視情報源」「重視情報内容」はどのようなものかを明らかにし、リテール業務に特化する銀行が「顧客に選ばれるためのマーケティング戦略」について提言した。
インターネットの利用の拡大に伴い、WWW(ウェブ)上で発信される情報量が急増している。また、インターネット上で財やサービスの取引きを行なう電子商取引も急増し、実に数多くの財やサービスが取引されている。今後この電子商取引の規模、範囲とも拡大することが予想されるが、全ての財やサービスがインターネット上だけで取引が完結されることはない。その典型的な例が住宅である。高額で購買頻度が低いという住宅を購買する消費者は、必ず、購買前に商品を自分の目で確認したいと思うからだ。ただ、収集しなればならない情報探索が多い商品であることから、インターネットによる情報提供については、購買者にとって有益だろう。
97年の消費税の引き上げ以来、新設住宅着工戸数は減少していて、住宅メーカーは激しい新規顧客獲得競争を行なっている。今後さらに、新設住宅着工戸数は減少していくことが予想されているので、住宅メーカーが新規購買者を獲得するためには、今まで以上に購買者の立場にたって、多くの便益を購買者に与えて行くことが必要となってくる。そうなると、購買者にとって有益なインターネットの活用を住宅メーカーは積極的に行なっていかなければならない。そのためには、住宅メーカーとしてはインターネット上で提供できる情報とリアル(営業担当者と住宅展示場)で提供できる情報を明らかにし、それらを最適な方法で融合した情報提供を考えて行くことが必要となる。
こうしたことを踏まえて本研究では、消費者調査を行ない、一戸建注文住宅の購買者の情報探索活動、具体的には、購買者がインターネットから収集しようとしている情報内容とリアル(営業担当者と住宅展示場)から収集しようとしている情報内容、インターネットとリアルとの関係を明らかにし、住宅メーカーが取るべきインターネットとリアルの融合戦略(情報提供)への提言を行なうことを目的とする。
分析の結果、以下の3つの点について提言を行なった。第1は本研究の目的であるインターネットとリアルを融合した情報提供方法。第2、第3は本研究の目的から少し外れるが、研究を進めていく中で明らかにすることが出来た点である。その1点目は営業担当者と住宅展示場に求められる役割。2点目は増大する非商業的情報源への対策。
メーカーの販売チャネルやマーケティングは、消費者の購買行動の変化に対応しながら変化して行くことが求められる。
販売チャネルが実効性を伴って成立するかどうかは、そのチャネルが消費者をひきつける価値は何であるかという観点から捉えることができ、同時にメーカーのマーケティングはそのチャネルが価値を提供するための条件を満たすためには何をする必要があるかという観点から捉える事ができる。
電子商取引の伸長が、メーカーの流通戦略にも影響を及ぼす可能性は否定できない。実際、現在メーカー各社は電子商取引への取り組み方を模索している。しかし、インターネットチャネルでの販売も売り手にとってメリットがあるだけではなく、消費者がインターネットで取引を行いたいと思うだけの、消費者をひきつける魅力を持っていなければ販売チャネルとしての有効性を持つだけのものになるとは思えない。
そのため、本研究においては、家電メーカーの事例を分析し、メーカーが電子商取引を自社製品の販売チャネルとして有効なものにするために、インターネットが消費者の購買過程の中でどのような情報を提供するものとして捉えられ、何で消費者をひきつけ、そのための条件は何であるかを明らかにすることを目的として分析を行った。
分析の結果、家電メーカーの電子商取引戦略は、既存流通をベースとする限りその戦略の延長上にあるということと、各社それぞれ違う戦略を採用しているということ、加えて限られた品揃えで販売を行っていくためには、製品力やブランド力のような指名購買を誘う要素が必要となるほか、顧客の維持を図るための施策が必要となるということであった。
しかし、現在、家電メーカーによる電子商取引は始まったばかりであり、どの戦略が有効であるのかは明らかにならない。また将来的なネットショッピング利用者像が、現在のネットショッピング利用者像と同様であるのか、著しく変化するのかに対する考察が行い切れなかったため、本研究においては電子商取引における家電メーカーのマーケティング戦略としてどのようなものであるべきという提言を行うことは早計であり、明言することはできないと考えられ、戦略的提言を行うことは避けた。
零細規模の医薬品小売業(いわゆるパパママドラッグ)が減少し続けている。この最大の要因は、業界を取り巻く環境が変化している中で、医薬品小売業者が従来通り、供給側の論理で戦略を立案しそれを需要側である消費者に押し付けていた、と言うところにあると考えられる。
近年、医薬品の販売等に関する規制緩和が少しずつではあるが進んできている。様々な医療費抑制策も検討されている。また、消費者のニーズも多様化してきている。このように環境が変化している中、医薬品小売業は、今までのような供給側の論理を展開するのではなく、消費者にも配慮すべき時代になってきていると言えるのではないか。
以上のことを踏まえ、消費者調査により薬局選定時における消費者のニーズを明確にし、旧態依然とした経営を現在も続けているパパママドラッグが成功するための競争戦略を構築するのが本研究の目的である。
分析の結果、消費者が調剤薬局を選択する際のポイントを絞り込むことができた。それは、「待ち時間」、「立地」、「薬剤師による薬の効能効果及び副作用の説明」の3つである。また、これら3つのポイントを選好する消費者には、それぞれ特徴があることが確認できた。環境の変化に対応するとともに、これら3つのタイプに分けた消費者それぞれに合った行動をとることこそが、これから消費者が望む理想的な薬局になれる必要条件となる。
国内の小売業者が低迷を続ける一方で、外資系企業の進出が目立っている。
日本の小売市場は、人口と所得水準から見れば世界有数の魅力的な市場であるといえるが、同時に「特殊性」という意味で、海外小売業者にとって参入困難とも思われてきた。しかし、こういった観点から見れば、日本の小売市場は参入阻害要因が大幅に減少しつつあるといえる。規制緩和や地価・賃貸料の低下は外資系小売業にとって追い風となっている事は間違いないだろう。
また、最近の傾向として目立っている点は、アメリカで最大のホールセールクラブであるコストコ社が福岡県久山町に日本1号店を開店し、また、世界第4位の小売業である、フランスのハイパーマートを中心とした小売チェーン、カルフールが2000年の千葉への出店を表明するなど、世界的な大規模チェーンが相次いで日本市場をねらっている事である。「これら外資系総合小売業者が今、日本進出をねらっているのはなぜなのか」また、「これらの小売業者は一部の人達が言うように、日本の小売業者にとって大きな脅威となるのか」というのがこの論文によって明らかにしたい点である。
本論文は事例研究により行った。取り上げる事例は「ボディーショップ」「トイザらス」「セブンイレブン」である。それぞれ特徴の異なった、かつ、代表的事例と思われる。進出先市場において、商品政策とオペレーションシステムをどのようにマネジメントしているのか、また、環境要因について分析した。
確認できた点は、1)成功要因として、商品面だけでなく、システム面での現地適合が重要である事、2)進出先市場において業態としての強みを維持できる環境がある事が重要である事、である。
続いて、総合小売業者の代表例としてカルフールの分析を行った。結論としては、日本市場においては、環境面の問題が大きく総合小売業者が成功をおさめる可能性は小さいと考える。
日本の医療業界の構造が大きく変化しようとしている。要因は、医療機関の環境の変化である。それは、薬価差益の減少、医療費抑制政策、診療報酬のマルメ化、人件費の高騰、医療機器の高額化等が挙げられる。
医療業界は製造業及び輸入販売業者、卸業者、医療機関がそれぞれ専門性を発揮することで業界全体を構成している。本研究では特に医療機器流通について取り上げている。医療機器業界の流通は、製造業及び輸入販売業者から非常に多くの品目にわたる医療機器を、多くの卸業者が医療機関へ納品している小規模分散構造になっている。それは市場が分断され、情報が医療機関へ行き渡っていないから、医療機関は限られた情報の中から選択している状況である。
供給側は広い範囲に販売し、需要側は広い範囲から良い条件で選択したいという要望に応える理想的なモデルと展開順序を提案する。それは狭い範囲での活動から、広い範囲でのマッチングにスケールメリットを活かせる。
そのために理論的にも整理し、次にベストプラクティスとしてイタリアのインパナトーレという繊維・アパレル業界でのオーガナイザーに注目し医療機器流通変革の可能性について考察をする。
最終的には、ネットワークが発達し多くの組み合わせの取引が出来るようになり、医療機関側からは購買代理業として、製造業者側からは市場開拓代理業としての機能を持ち備えたオーガナイザーが介在することにより市場を活性化させる存在になることを提案している。
消費者金融業界を取り巻く環境は激変している。業界外では、銀行を始めとした他業態からの参入が相次いでいる。2000年後半からはホワイト情報の交流が実施されることとなり、こうした流れは一層加速するものと思われる。業界内では、出資法の改正によって上限金利が引き下げられるため、顧客獲得競争がより激化するものと思われる。また、外資による買収が盛んに行われる一方で、他業態と新会社を設立する企業が現れるなど、生き残りを賭けた競争が活発になっている。
このような環境下、これまで好調に収益を伸ばしてきた消費者金融業界であったが、近年ではその成長率に陰りが見え始めている。消費者金融業界は「新規顧客の減少」という大きな課題に直面しているのである。
本研究では、新規顧客の獲得を目的とした施策提言を行うために、消費者金融に初めて利用に来られた顧客に対し、利用目的や重視度を調査するアンケートを実施した。分析の際には、全国消費実態調査報告と利用目的から顧客の経済状態を推測し、どのような経済状態の時にはどういったファクターを重視するのかを確認した。この結果を基に、好況期,不況期にそれぞれ投下すべき施策を考察した。
その結果、好況期にはチャネル数増加や利便性の向上など、利用を促進する施策が有効であることが確認された。不況期には利用にあたっての心理的抵抗感(借入れに対する抵抗感や返済に対する不安)を軽減する施策が有効であることが確認された。
従来、日本の食品企業のコーポレートブランドは消費者に対する「信頼の印」としての意味を付与されていた側面が大きい。しかし、食品企業をとりまく環境要因は大きく変化している。消費者が学習によって十分な情報を蓄積し、成熟した「賢い消費者」が出現してきたことでコーポレートブランドの拡張を中心に展開してきた食品企業のブランド戦略は見直しを迫られている。反面、バブル崩壊後の市場環境の悪化は新製品の成功率の低下という形をとって企業を直撃し、コスト面で大きな負担となる新規ブランドの創出と、自社の資産を活かす従来型のブランド拡張とのバランスをいかにとるかが企業の重要な経営課題になっている。
本研究においては、「信頼の印」としての意味付けを行なわれてきた食品企業の「コーポレートブランド」に焦点を絞り、消費者行動面からの実証研究を行なうことでその拡張範囲や適合性の基準について提言を行なうこと目的としている。
実証研究にあたっては、コーポレートブランドを適用するカテゴリーに着目し「カテゴリーの類似性」と複数カテゴリーにわたるブランドの「イメージの共通性」、およびカテゴリーに対する「関与」、「ブランドコミットメント」、「判断力」を変数として使用した。
実証の結果、コーポレートブランドの持つ複数カテゴリーにわたる「イメージの共通性」、ブランド拡張先カテゴリーと拡張元カテゴリー間の「カテゴリー類似性」によって、ブランド戦略を4つに類型化し適用していくことが必要であることが示された。
スーパーをはじめとする異業種の参入による低価格競争の激化、運転免許保有者の拡大や自動車の普及率向上による消費者ニーズの多様化、そして相次ぐ規制の緩和により、ガソリンスタンドを取り巻く環境は激変している。
従来ガソリンスタンド業界は、様々な規制の影響もあって供給者側の論理で戦略を立て、それを消費者に押し付けてきたきらいがある。しかしながら、消費者の車に対する価値観や使用シーンが変わっていく中、ガソリンスタンドが求められるものも変わりつつあるといえよう。このような変化の中で、消費者の視点から日本におけるガソリンスタンドのセルフ化戦略を構築するのが本研究の目的である。
分析の結果、セルフスタンドの選好度によって消費者を5つのグループに類型化することができ、これらが自分の車に対する愛着度と関連がある事がわかった。また、ガソリンスタンドの変更価格差における類型化においても、3つの需要特性を持つグループを見出し、これら2つの類型化を統合する事でセルフのガソリンスタンドが標的とすべき市場が明らかになった。
これを受け、標的市場である「LOYALIST」と「PRICE SEEKER」を集客するためには、給油のスピーディーさを追及すること、女性客の不安を解消させること、そしてフルサービスのガソリンスタンドとの価格差を2円にすべきであることなどを提言した。
近年におけるインターネットの急速な普及に伴い、日本においても数多くの企業がオンライン・ショッピングに取り組んでいるが、成功を収めた例は少なく、オンライン・ショッピングの成功・普及が日本においては進んでいないという状況にある。
本研究では、オンライン・ショッピングに本来適していない財がインターネット上で取り扱われている可能性に着目し、オンライン・ショッピングに対する財の適合性がどのように規定され、その適合性の高い財とはどのようなものなのか、という点を明らかにする事を目的として取り組んだ。
また、上記の点を明らかにする為、オンライン・ショッピングにおいての先進国である米国の事例を研究し、その分析を通じて、顧客が財を購入するにあたり必要とする情報を理性情報と感性情報とに分類して定義し、この二つの情報に対する重視度を用いて、オンライン・ショッピングに対する財の適合性を規定する事を目指し、この点の検証の為に消費者に対するアンケート調査を実施した。
その結果、オンライン・ショッピングに対する財の適合性は、顧客が商品を購入するにあたり必要とする、理性情報・感性情報と、財の持つ特性である合理性と同一性、購入店舗選択にあたって重視される経済性によって規定される事が明らかになった
また同時に、オンライン・ショッピングに対して高い適合性を持つ財は、その特性から複数のグループに分類される事も明らかとなった。
本論文では、消費者が製品を通して潜在的に実現を願う価値に焦点を当て、ヨリ中心性の高い価値のレベルで、差別化を図るマーケティングの方法を検討している。
製品と価値との関連を構造的に理解するために、Ladderingを用いた。これによって、一般的に関与が高いと思われる自動車と関与が低い銀行の価値構造を調査した。
自動車の場合、特定の属性と特定の価値とが結びついている場合がある事が確認された。これより、(1)ヨリ中心性の高い価値へ遡及し、関連性を強める(2)中心性の高い価値へ遡及する際に、新たな属性によって遡及する方法と関連する低位な価値へ遡及を試みる(3)既存の属性によって新たな中心性の高い価値へ遡及する、の3つの遡及パターンが検討された。
一方、銀行の価値構造は、社会心理的結果を頂点に低い次元でヒエラルカルな構造を成し、価値との関連が希薄である事が確認された。これより、(1)中心性の高い価値への遡及を試みる(2)銀行における最も中心性の高い価値へ遡及する。(3)さらに中心性の高い価値へ遡及する、方法の可能性について検討した。
銀行業界は、ビッグバンを背景に今後急速に淘汰が進む事が予想され、差別化が必要となる。本マーケィングは、同質化の激しい銀行の製品に新たな視点から差別化をする道を与えるものである。
昨今の規制緩和の影響で、電気通信市場における競争がし烈化している。今後、他の事業者との差別化を図るためにも、これまで以上にマーケティング戦略の重要性が高まるだろう。
本研究では電気通信事業を通話を提供するサービス業であると捉え、サービス業のマーケティングの観点から電気通信事業者のマーケティング戦略を見直した。また、それと関連して、消費者行動分析の手法の一つであるコンジョイント分析を用い、ユーザーが事業者を決定する際にどのような属性を重視するのか分析し、その結果をもとにしてユーザーのセグメント化を行った。
その結果、料金以外の要因を重視するグループも存在することが明らかになり、魅力的なサービスの開発と提供が差別化の重要な要因となりうること、そして事業者としては常にユーザーのニーズを理解すべく調査・研究に注力しなければならないことが再確認できた。
本研究による価格以外の要因による差別化を、電気通信事業者が図ることができれば、有効なマーケティング戦略になりうるものと確信している。
マルチメディア・ブームの中、消費者市場に投入された携帯電話、ファクス、パソコン通信といった新しい情報通信機器は、着実に普及を続ける過程で様々なライフスタイルの消費者によって、耐久消費財として、またメディアとして、その新たな用途や意味が創造されている。この背景の下、企業はその市場ニーズをどのような視点で捉えていくかがマーケティング戦略ひいては製品開発の上において重要な課題となっている。
消費者行動に関する研究では、消費者は製品知識構造の中で、製品利用を通じたより好ましい行動様式を「価値」として求め、それが製品利用の目的であるとし、価値を捉え、また製品属性、それがもたらす結果、価値との結びつきを把握することがマーケティング戦略の構築上重要であるとしている。そこで、本研究では、実証研究により、携帯電話、ファクス、パソコン通信といった新しい情報通信機器の利用者が、それらに対してどのような「価値」を消費目的として求め、それが製品特徴や用途とどのように結びつき満足されているかを解明することで市場ニーズが捉えられ、課題の解決に結びつくものとして取り組んだ。
研究の結果、携帯電話、ファクス、パソコン通信に求められている3つの価値が発見された。1つめは、携帯電話に求められている「自由空間での自分存在のリアリティ」という価値で、本拠地である自宅を離れても友人や家族等の所属集団に自分の連絡所在を明確化し、帰属意識や共生感を持つことができるというものである。2つめは、携帯電話とパソコン通信に求められている価値でおしゃべり電話がさらに進化した「自分浮遊のリアリティ」である。3つめは、携帯電話とファクスに求められている従来からの通信の本質ともいえる「効率化した、また、楽しく活性化した生活時間を送る」というものである。さらに、具体的な製品特徴の今後の有用性として、電子文字、パーソナル通信、移動体通信のプライベート・コミュニケーションでの有用性も発見された。
本論文では韓国と日本の小売業態展開の比較研究に取組むにあたって、2つの課題を設定している。ひとつは、研究の発端となった日本型GMSの失敗原因の解明である。もうひとつは、韓国で日本型GMSが失敗した原因解明の結果に基づき、韓国へ進出しようとしている外資系・多国籍小売業者や、新しい業態を展開しようとする韓国小売業が成功・発展をするためのインプリケーションを提示することである。このためべインの産業組織論をベースに1)流通業の発展過程の比較、2)商業統計を利用した構造比較、3)企業ケース分析を通して研究を進めた。
両国流通業の展開過程の共通点として①大衆消費市場の形成まで長いタイムラグ存在、②二重構造が長期間存立:一握りの大規模百貨店と膨大な中小小売店、③「小売の輪」のような展開がみられない:百貨店以降小売業態革新が一気に到来。相違点として①韓国は中央集権、日本は封建制、②卸売業が成長できなかった、③韓国は展開過程において逆行現象がある。構造比較の結果として①零細過多の規模構造、②業種・業態構造の類似性、③高い製造業による垂直統合率、④ソウルへの高い一極集中、⑤W/R比率が低い、etc。以上の調査結果をふまえ明らかになった日本型GMSの失敗要因は、Ⅰ大衆消費市場が形成される直前、Ⅱ価格帯、品揃において百貨店と直接競合、②価格競争力もてず:運営方式同じ、卸売業の不在。
流通業もグローバル化という変化の下、競争激化が予想され既存の製造業中心の流通構造では効率性の維持が困難である。従って小売業による卸売機能の遂行を提言する。しかし、卸売と小売では最適品揃え・規模が違うので非効率性が発生するので、非効率性が発生しにくい業種や業態を選択、開発が成功のために必要不可欠であろう。
金融システム改革が進む今後、購買関与度と探索判断力から観た顧客ポジションにも移動が起こる。金融機関は単独で全ての顧客層と全ての業務分野をカバーする事は困難となり、競争環境に応じて新たなマーケティング戦略の構築が必要となる。本研究では、2001年の銀行と保険会社の相互参入を取り上げ、生命保険会社が競争優位を確立するための考察を加えた。その本質的な要素とは、オープン型のネットワーク型経営の導入と言った、外部資源を有効活用したマーケティング戦略である。
ネットワーク型経営により好業績を挙げている企業は、系列に拘らず相互に外部資源を活用することにより、不足した資源の獲得、新たな価値の創出、コストの削減など「範囲の利益」「規模の利益」を実現し、さらに資源の獲得や開発に要する時間の短縮を意味する「速度の利益」を獲得するためにネットワーク型経営を活用していた。
生命保険会社は、他金融機関を販売チャネルとして活用する傍ら、ネットワーク上で主導権を握るために固有業務分野でアウトソーシング・ベンダー機能を果たし、新規参入の脅威をビジネス・チャンスに変えてしまうことが必要である。さらに本研究では、購買関与度と探索判断力の2軸を活用し、各セグメントに対して提供する商品、販売方法、付加価値を供与する方法、ネットワーキングと言ったマーケティング戦略の提言を行った。
本研究は日頃持っていた‘エレクトロニクス産業はハイテク産業でありながら競争の激しさにより収益性は低い’という問題意識から出発する。即ち、経営
者や戦略立案者は絶え間がない技術や製品の改良と急速な価格下落の二重苦に追われていながらも自分たちがその競争の先頭に立つために尽力するという、窮るところを知らぬ悪循環の状況であると感じられる。
一方、一言でエレクトロニクス産業といっても、製品あるいは事業分野の多様性により、経営者が戦略的な意思決定に臨む際にその競争状況や収益性を体系的に考慮しながら考えることは非常に難しい
と言われている。
したがって、本研究の目的は、エレクトロニクス産業の競争力と収益性を分析するためのフレームワークの一例を提示することで、現業で戦略を立
案する際に役に立つようなヒントを提供することにしている。現実的な分析の手段 になるには分析対象の範囲を限定する必要があり、二つの工夫が行われている。
まず、世界のエレクトロニクス産業を支配している日本のメーカーを対象にし、また、競争状況がエレクトロニクス産業構造の典型的な例だと判断される事業を事例として挙げる。
分析にはM.ポーターの競争戦略及び競争優位の論理に沿って、3つの段 階が含まれている。第1段階で、エレクトロニクス産業構造を分析し、5つの競争
要因の水準やファクシミリ事業を事例として挙げることの妥当性を確認した。第2段階で、戦略グループと移動障壁の影響を分析した。第3段階で、価値連鎖及び事 業間の関連性の概念を活用して、企業ことの競争力と収益性に差が発生する源泉を
分析した。選定されたメーカー6社に設問調査を行った結果から、原価動因及び差別化動因のなかで、市場変化と整合性のあるマーケティング政策、海外生産政策、 相互関連性などの多数の項目の影響が確認された。
近年ブランドは、企業サイドからは非価格競争上の競争優位の源泉としての観点などから、また消費者サイドからは意味としてのブランドの役割が増大していることなどから、研究が進み、重視されてきている。
本研究では、企業ブランドの形成過程とその管理についてを研究主題とし、その企業の歴史上の「エピソード」との関係に焦点を当てて分析した。
具体的には、「エピソード」を数多く有しているが現在は普及ブランドとなっている「株式会社 中村屋」を中心に、同業で高級イメージを保っている「株式会社 虎屋」を比較対象とした事例研究を行った。
本事例における発見物は、以下の3点である。
まず第一に、エピソードがブランド価値、すなわちブランド・アイデンティティの構成要素を構築し、ブランド形成に大きく関与した。
第二に、ブランドアイデンティティを常に中核に持つマーケティングを行うことによって、そのブランド価値は維持される。ブランドの歴史やエピソードは、ブランド・アイデンティティを裏付ける存在である。
最後に、エピソードはブランド価値を内包し、端的に表現するものであり、しかもストーリー性があり理解・記憶しやすい。エピソードを用いることで消費者にはブランド価値をアピールしやすく、また企業内においてもそのブランド・アイデンティティを再認識させやすい。そのため、エピソードはブランド戦略上有効な手段のひとつとしてさらに活用されるべきものである。
最近1、2年の間、大手専業通信販売企業の業績が大きく悪化している。 その反面、テレビショッピングへの新規参入が急増中である。
消 費者行動の変化、情報通信技術の発展を背景に、低価格を武器にする大 手企業を中心に成長してきた通信販売市場に新しい動きが起こっているのである。
その一方、マルチメディアで騒がしい今、通信販売企業にも新しいメディアの導入が試みられている。
中間業者を通さず、メディアを利用し、消費者に直接働きかけることを大きな特徴とする通信販売にとって、新しいメディアの導入は大きな意味を持つ。メディアは、通信販
売企業の大きな費用項目で、消費者の商品注文率を左右するものであり、消費者の購買行動を規定する要因でもあるからである。
市場の変化、新しいメディアの進展につれ、通信販売産業には更なる消費者の購買行動の研究が求められている。本研究では、消費者の通信販売による購買行動とカスタマー・シェアの2つの視点で分析を進め、通信販売利用における消費者の購買行動を規定する要因を探り出
し、通信販売の新しいメディア具体的には、インターネット導入にあたって、注目すべき以下の示唆を得ることができた。
一般的に、インターネットが通信販売メディアとして、高く評価されている、情報の豊富さ、情報探索の利便性、情報の更新性では消費者
の通信販売利用頻度を高めることはできなく、消費者の購買リスク削減手段の重視パターンは知名度のない小規模新規参入企業、個人のインターネット事業者には大きな障害物であるが、インターネットは購買関与度が高く、また情報陳腐化の速い商品においては、優れた通信販売メディアになりうるということが分かった。
郊外ショッピングセンターや大型小売チェーンの発達とともに、駅前商店街に代表される中小小売店の衰退がみられる。この状況において、今後中小小売店はどうしたら激化することが予想される競争において勝ち残れるかを考察する。
本論分の前半においては、流通業全体の過去からの流れを概観することにより、中小小売店が衰退する原因を探り、それを一般化するようなキーワードを見いだすことを試みる。
そして、キーワードをもとに、靴業界を分析し、中小小売店の現状認識をする。ここにおいて、靴業界を選択したのは、近い将来大きな変化が予想されるからである。
また、後半部分においては、靴に関する調査をもとに、靴の購買における消費者行動を類型化することを試みる。類型化にあたっては、購買関与度・品質判断力という概念に加え、ライフスタイル要素を用いることで、より明確な消費者像をつかむこととする。
これにより導出された中小小売店のターゲットの特性をもとにすると、現状では、靴を義務的な消費ととらえている消費者が多いことがわかる。
しかし、靴がファッション商品として浸透していく過程で、業界も再編成し、消費者も変化すると思われる。
靴業界の変化の方向性を定めるとともに、中小小売店のとるべき戦略を最後に提案する。
ゼミナールOB/OG
修士課程