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「新型コロナ危機による流通チャネル変革と戦略課題」
『マーケティング・ジャーナル』 41巻4号 日本マーケティング協会 (2021年6月)
Ⅰ.はじめに
新型コロナウィルス感染症の流行は、わが国の社会に大きな影響をもたらした。マーケティングに対しても例外ではない。マーケティングを含む事業活動そのものが休止に追い込まれたり、あるいはマーケティングのやり方が大きな制約を受けたり、新たな方向に向かったり、といった話は、枚挙の暇がない。
短期的には、なんとかこの危機を凌がなければならない。例えば、レストランならば、テイクアウトや宅配をスタートさせ、チラシやインターネットで拡販を図るというのが、これである。また、コストダウンや財務体質の強化も重要である。これらは、BCP(Business Continuity Plan = 事業継続計画)の守備範囲に入るのであろう。
ただ、このやり方は長くは続かない。中期的には、新たな環境の制約に積極的に適応していくことが求められる。テイクアウトや宅配あるいは新業態に活路を見出すのであれば、それに本腰を入れたマーケティング戦略が必要になる。不便を抱えている人が多ければ、マーケティング機会は溢れているわけで、マーケティングの役割は大きい。
激変する環境のなかで、このように、マーケティング戦略をいかに適応させていくかは、マーケティング研究、マーケティング実務の双方にとって、きわめて重要な課題である。しかも、今回の新型コロナ危機がマーケティングに及ぼす影響は、それにとどまらないであろう。生活様式や購買行動の変化に不可逆的な部分が含まれるならば、長期的には、マーケティングのあり方を抜本的に変えてしまいかねない可能性も秘めている。
例えば、接客ができないため自動車のような製品さえオンラインで商談が行われ、特に問題がないとなると、この後の自動車流通は激変し、そのことがメーカーの競争地位に劇的な影響を及ぼすというシナリオさえも否定はできない。
テレワークが定着すれば、人々の生活のあり方が変わり、それにともなってニーズが様変わりするということも多いに考えられる。
新型コロナ危機への対応のためにやむを得なくとった対応が結果的に快適であったり、効率的であったりして、新型コロナ危機収束後も継続するという場面は少なくないであろう。
いま求められているのは、新型コロナ危機にどう対処するかとともに、その先にどのような世界が広がり、その世界のなかでいかなるマーケティングを展開するかに思いを巡らせることであろう。
そうしたなか、本稿は、新型コロナ危機に直面したわが国のマーケティングが、とりわけ中長期的にみて、どのような課題をもつに至るかを検討しようとするものである。具体的には、新型コロナ危機が感染症予防の観点からいわば強制的にもたらした、流通チャネルを中心としたマーケティングの変革が、中長期的にどのような戦略課題をもたらすかを明らかにする予定である。
Ⅱ.オンライン商談とマーケティング戦略
Ⅲ.流通チャネル政策のジレンマ
Ⅳ.D2Cの台頭
Ⅴ.オムニチャネルの新展開
Ⅵ.変革からイノベーションへ
Ⅶ.むすびにかえて
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「サービス業における支払意思価格の向上を目指して:宿泊業・飲食業を中心として」
『流通情報』、541号、流通経済研究所、(2019年11月)
1.はじめに
2018年、訪日観光客数は3000万人を突破し、過去最高を記録した。
訪日観光客受け入れの主役は、国際的にみてもきわめて高い水準のコンテンツを提供する、わが国の宿泊業と飲食業である。おもてなしと美食は日本観光のいわばツートップである。ところが、このツートップが、生産性の低さゆえに低賃金を余儀なくされ、人手不足に悩んでいる。したがって、宿泊業や飲食業における生産性の改善は、わが国におけるきわめて重要な課題だといわなければならない。
こうした状況の改善には、情報通信技術や人工知能などを活用した効率化はもちろん有望であろう。しかし、それとともに重要なのは、宿泊サービスや飲食サービスに対する顧客の支払意思価格(Willingness To Pay = WTP)を高めることである。
また、訪日観光客数が順調に増加している反面、観光客一人あたり消費額は2015年をピークに近年伸び悩んでいる。観光客一人あたり消費額の改善には、娯楽サービス不足の解消が重要であることはいうまでもないが、それとともに、宿泊サービスや飲食サービスに対するWTPの改善も大きな役割を果たしうる。
しかも、宿泊サービスや飲食サービスに対するWTPの改善は、外国人観光客によるインバウンド需要だけの課題ではない。宿泊業や飲食業における生産性の低さは、国内需要に起因する部分も少なくない。
本稿は、国内需要とインバウンド需要の双方を含めた形で、わが国における宿泊サービスや飲食サービスに対するWTPの改善の方策を探ろうとするものである。
2.サービス業の生産性
3.支払意思価格と価値の種類
4.情緒的価値の追求
5.自己表現価値とSNS
6.むすび
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『JSMDレビュー』第2巻 日本商業学会 (2018年4月)
1.はじめに
リバース・イノベーションという現象に注目が集まっている。リバース・イノベーションとは,新興国市場に焦点を当てたイノベーションが先進国市場に逆流するという現象である。従来イノベーションは先進国市場から新興・途上国市場へと広がっていたのに対し,それとは反対の方向での動きが近年見られているわけである。
本稿では,まず,わが国企業においてなぜ新興・途上国市場向けのイノベーションが注目されなければならないのかを再確認する。そのうえで,この新興・途上国向けイノベーションが,わが国のような先進国の市場において,どのような需要側の条件のもとで,どのようなインパクトをもたらすかを検討する。つまり,リバース・イノベーションが生じる需要側の条件の検討である。リバース・イノベーションが,先進国場において,いかなる機会と脅威をもたらすかは,そのことによって明らかになるものと思われる。
2.新興・途上国市場への注目
3.新興・途上国市場のためのイノベーション
4.リバース・イノベーション の事例
5.破壊的技術の考え方
6.顧客購買特性とマーケティング
7.新規参入顧客の特性
8.リバース・イノベーションによる機会と脅威
9.おわりに
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本稿では,まず,JTBのビジネスモデルとJTBを取り巻く市場環境の変化を確認したうえで,いわゆるポートフォリオ分析の観点から,将来のキャッシュフローを生み出す新たな柱となるスター事業の必要性を指摘する。次いで,新たなスター事業候補を分析するための枠組みとして,購買関与度と製品判断力という二つの購買特性が導入され,この枠組みに従って,日本国内で新たに生まれている市場機会は,JTBのような既存の確立された企業にとって柱となるスター事業候補としては必ずしも有望ではないことが導かれる。この文脈で訪日インバウンド市場の重要性が強調され,さらにそこで求められるマーケティング戦略の方向性が論じられる。
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『商学論究』第60巻第4号 関西学院大学商学研究会 (2013年3月)
Ⅰ はじめに
ビジネスの世界では、時折、どのようなやり方が競争を有利に進めることができるかという、競争のルールを変えるような新しい現象が登場する。破壊的イノベーション(Christensen 1997; Christensen and Raynor 2003)やロングテール(Anderson 2006)も、そうした現象だといえよう。
これら二つの現象の特徴は、いずれも供給側の事情に起因して、新しい市場が生まれている点である。それだけに、これらは、とりわけマーケティングとも深い関係を有している。
破壊的イノベーションによる破壊的技術とは、既存製品よりも性能は下回るが、新たな顧客に評価される傾向があるという特徴を有する。油圧式掘削機、ディスカウントストア、インクジェットプリンターなどは典型である。重要な点は、こうした技術は、従来の価値基準では高く評価されないが、それを評価する新たな需要が生まれることによって、大きなインパクトをもつに至ったことである。この新たな需要は、それまでと比べより手軽なものを求めるがゆえに、ライトディマンドと呼ぶことができよう。
これに対して、ロングテールとは、通信販売による在庫の集中や製品のデジタル化(在庫負担がなくなる)などによって、売上の小さな数多くの製品の並立が、つまり膨大な選択肢が、効率という面から可能になり、さらにその結果多様な需要が活性化するという現象である。つまり、ロングテールも、この現象の原因は供給側の事情に求められる。
破壊的技術とロングテールではともに、供給側の変化に需要が反応して、新たなタイプの市場が形成された。では、これら供給側の条件が整ったとき活性化するのは、どのような特性をもった需要なのであろうか。破壊的技術や膨大な選択肢という供給側の条件が整ったとき、その供給をいかなる特性をもった市場標的に向け、いかなるマーケティング施策を講じるべきかは、きわめて重要なマーケティング課題である。つまり、技術起点ないし供給起点のマーケティング対応である。
本稿では、この二つの現象の素地が同時に生まれている産業として、ゲーム産業を取り上げ、こうした供給側の変化がどのような需要を活性化し、どのようなマーケティング施策を必要とするのかの検討を通じて、技術のような供給側の進化が求められるマーケティングのあり方にどのような影響を及ぼすかについて知見を得ることを目的とするものである。
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『東京経大学会誌:経営学』 274号 東京経済大学経営学会 (2012年2月)
1. はじめに
本稿は、池尾(2010)で示された、企業の性能改善競争が過剰性能を生み出すメカニズムを、構成因果関係に関する仮説という形で整理し、その経験的妥当性を検証するとともに、それらの仮説に基づいたとき、具体的にどのような製品でコモディティ化が生じやすいかを示そうとするものである。
2.「イノベーションのジレンマ」
3.顧客購買特性とマーケティング
4.仮説
5.調査の概要と基礎概念の尺度構成
6.仮説の検証
7. 購買関与度の規定因
8.コモディティ化の製品別分析
9.むすび
本稿の目的は、池尾(2010)で示された、顧客が求める市場提供物が製品判断力や購買関与度に応じてどのように変わってくるかについての理論モデルを仮説という形で整理し、さらに実証研究によって、それらの経験的妥当性を検証するとともに、予算内優先順位の低下が初回購買を含め購買関与度の低下をもたらすことを確認し、そのうえで、需要側の条件に注目したとき、具体的にどのような製品でコモディティ化が生じやすいかを示すことであった。
その結果によれば、あらかじめ想定された理論仮説はすべて経験的に支持された。したがって、「過剰」が生じ、製品のコモディティ化が進み、「破壊的技術」の参入余地が生じるメカニズムに関するわれわれの説明は、経験的にも確かめられたと考えられてよい。
いま一つの課題は、いかなる製品でコモディティ化の需要側条件が整っているかを示すことであり、これについても分析結果が示された。もっとも、この部分についての分析は、製品別であるため、一部の製品についての結果は、具体的にはデスクトップパソコン、デジタルカメラ、DVDレコーダーについての結果は、サンプル数がかなり少ないことに留意する必要がある。
また、コモディティ化が生じるか生じないかは、需要側の事情だけでなく、供給側の差別化努力などにも依存するため、これだけで現状を説明することはできない。
しかし、コモディティ化の発生が需要側の事情に大きく依存することは間違いなく、その事情は、これまでみてきたように、顧客の購買特性によってかなりまで説明されるということができよう。さらに、コモディティ化進行の需要側条件が整っているのであるならば、売り手としては、低関与購買に対応した製品を作るか、高関与購買に導ける製品を作ることが求められることは間違いない。
この結果に基づけば、具体的にはノートパソコンにおいて、またサンプル数の制約はあるもののデスクトップパソコン、デジタルカメラにおいて、こうした対応が求められる。これに対して、薄型テレビでは、またサンプル数の制約はあるもののDVDレコーダーでは、新規参入顧客には人的情報源を活用した丁寧な販売に心がけるとともに、製品判断力の上昇とともに、バリュー・フォー・マネーの改善や機能・性能向上が必要になるものと思われる。
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「マーケティングにおける同質化とジャストミート」
『商学論究』 第58巻 第4号 関西学院大学商学研究会 (2011年3月)
Ⅰ はじめに
戦後のわが国においては、リーダー企業が優れた流通チャネルの囲い込みを背景に、競合企業に対して同質化を図るという戦略を採用し、好ましい業績を維持するという事例が数多く見られた。ところが、長年にわたる市場環境や競争環境の進展のなかで、こうした同質化戦略がいまだに有効性を維持している事例もあるが、有効性を低下させている事例も少なくない1)。
では、そもそも一体なぜ、戦後のわが国においては、流通チャネルの囲い込みを軸に、競合企業に対する同質化を図るというやり方がうまく機能したのであろうか。この条件が明らかになれば、同質化戦略が機能しなくなる状況も明らかになるであろうし、さらには、同質化戦略が機能しなくなった場合のマーケティングの方向も浮かび上がってくるものと考えられる。
本稿では、こうした問題意識のもと、リーダー企業の同質化戦略が有効に機能する条件を探るとともに、その有効性が揺らいでいくメカニズムを、競争対抗行動と購買行動の双方の観点から検討する。そのうえで、同質的なマーケティングが機能しなくなったときに求められるマーケティングの方向を提示する予定である。
Ⅱ 流通系列化の背景
Ⅲ 同質化戦略と真空地帯の発生
Ⅳ 同質化戦略の条件
Ⅴ 同質化戦略と流通チャネルの差別化
Ⅵ 購買関与度と製品判断力
Ⅶ 顧客購買類型とマーケティング
Ⅷ まとめ
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「過剰性能とマーケティング戦略」
『マーケティング・ジャーナル』 30巻1号 日本マーケティング協会 (2010年6月)
1.はじめに
企業は、よりよい性能(ないし品質やサービス)をめぐってしのぎを削ることが少なくない。しかし、こうした性能改善は顧客に望まれるものなのであろうか。もちろん、それらにコストを要しないのであれば、改善は常に顧客に歓迎されるであろう。しかし、性能の改善には、コストをともなうことが多い。したがって、そのコストが顧客に転嫁されたときには、それを上回る価値がもたらされなければ、魅力は低下してしまう。
それにもかかわらず、多くの企業は果てしない改善競争を繰り返し、顧客が求める性能水準を上回って過剰性能をもたらし、そのことが、製品のコモディティ化(楠木 2006; 延岡 2006; 恩蔵 2007)、価格競争、そして収益の悪化の一因にもなっている。
そうしたなかで、注目を集めてきたのが、クレイトン・クリステンセンによる「イノベーションのジレンマ」の考え方である(Christensen 1997; Christensen and Raynor 2003)。それによれば、持続的技術進歩は時として、市場のローエンドが求める性能水準のみならず、ハイエンドが求める性能水準をも上回り、そのことが、ローエンドでの破壊的技術の機会を生み、その後の格上げによって市場の劇的な変化をもたらす。
クリステンセンの議論は今日多くの業界でみられる市場進化を巧みに説明するものとして、多くの支持を集めてきた。しかし、マーケティングの観点から注目すべきは、この議論が重要な前提として、顧客の求める性能水準が存在し、それが時間の経過とともに上昇していくことを、想定していることである。
では、顧客が求める性能水準はいかに決まってくるのか。
確かに顧客の求める性能水準が時間の流れとともに上昇していくという現象はよく観察される。しかし、その上昇のスピードは、製品やサービスによって、あるいは顧客の間で異なるのが普通である。つまり、顧客に求められる性能の上昇スピードは、製品やサービスの特性と顧客の特性によって規定される購買特性によって、変わってくるはずである。だとすれば、顧客の求める性能水準と実現された性能水準の関係も、購買特性によって変わってくるはずである。
こうした観点から、本稿では、購買特性を製品判断力と購買関与度によって捉え、この二つの要因との対応のなかで、いかにして「過剰性能」が生じるかの説明を試みる。そのうえで、製品判断力と購買関与度に還元される顧客行動との対応のなかで、過剰性能を回避して収益性を改善するための戦略の方向をマーケティングの観点から、製品アーキテクチャも踏まえながら示そうとするものである。
2.「イノベーションのジレンマ」
3.購買関与度と製品判断力
4. 過剰性能の背景
5.競争のダイナミクス
6.「過剰」の発生メカニズム
7.製品アーキテクチャの役割
8.まとめ
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「流通業態の動態における利便性強調型流通業」
『三田商学研究』 第49巻4号 慶應義塾大学商学会 (2006年10月)
時間の経過にともなう流通業態の変遷をいかに説明するかは、小売業態の動態の解明という形で、小売研究における重要なテーマの一つを形成してきた。そのため、古くは「小売の輪の理論」以来、小売業態の動態の解明には、今日まで多くの研究努力が投入されてきた。
ところが、従来の小売業態動態論は、主に価格強調型業態とサービス強調型業態の動態関係に焦点を当て、サービス強調型業態におけるサービスの中身については、ほとんど説明対象としてこなかった。また、説明要因に関しても、主に競合関係に焦点が当てられ、顧客の購買行動は、競争対抗の結果として選好分布のなかで生じる不満顧客の存在や顧客の生活水準の向上等が取り込まれているにすぎず、必ずしも多くは語られてこなかった。
本稿の目的は、過去20年間のわが国の流通を振り返ったとき、最も注目を浴びるべき流通業態に含まれるであろうコンビニエンスストアとオフィス向け通信販売に注目し、それらの成長理由の検討を通じて、流通業態が提供するサービスの中身に立ち入った形で、流通業態の動態を説明するための一般的枠組みを提示することにある。
そこでは、流通業態の戦略次元として、市場細分化の程度、価格に加え、購買利便性とカテゴリー利便性が取り上げられ、戦略次元相互の関係が分析されるとともに、これらのなかで、利便性強調型流通業態を含む代表的な流通業態が位置付けられる。さらに、流通業態戦略次元のあり方を規定する要因として、標的購買の購買関与度と製品判断力が抽出され、それらの規定関係が提示されるとともに、コンビニエンスストアやオフィス向け通信販売に典型的にみられる運営システムのイノベーションの役割が、上記の枠組みのなかで説明される。
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「利便性強調型流通業のイノベーション」
『マーケティング・ジャーナル』、25巻4号、日本マーケティング協会、(2006年3月)
わが国のマーケティングはもともとアメリカから導入されたという経緯もあって、戦後わが国で登場したマーケティング・イノベーションのなかには、アメリカを中心とした海外から導入されたものが多かった。しかし、そうした場合であっても、わが国への導入にあたっては、わが国の事情に合わせて、あるいは導入者の創意工夫によって、改良が施され、その改良過程のなかで、もはや独自のイノベーションと呼びうるような進化を遂げたものも少なくない。
本稿で取り上げるコンビニエンス・ストア(以下コンビニ)や、アスクルに代表されるオフィス向け通信販売(以下オフィス通販)も、そうした事例である。
コンビニエンス・ストア
オフィス向け通信販売
流通業における顧客便益と運営システム
流通業の戦略要素
流通業における戦略パターン
流通業態イノベーション
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「小売業における個別対応型マーケティング」
『流通情報』、435号、流通経済研究所、(2005年9月)
1.はじめに
消費の個別化や関係性マーケティングの議論の高まりを受けて、顧客の個別識別や個別対応に注目が集まっている。
もともと顧客の個別識別や個別対応は、一部の業務用製品メーカーやサービス業では、珍しいことではない。また、一部の小売業でも、小規模ながら、そうした対応は行われてきた。例えば、ベテランの小売店員ならば、きわめて多くの顧客情報を記憶し、それを活用して推奨販売を行うということもあるであろう。
それが、近年では、独自カードの導入やインターネット販売を含めた通信販売の発展もあって、小売業においてより大規模な形で、顧客の個別識別・個別対応が行われようとしている。
2.個別対応の経済性
3.戦略トライアングルの考え方
4.小売業における戦略パターン
5.個別対応と戦略トライアングル
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「消費の個別化とマーケティング戦略」
『AD STUDIES』、Vol.12 Spring、吉田秀雄記念事業財団、(2005年)
1.はじめに
消費の個別化やそれを踏まえた個別対応のマーケティングの議論が盛んである。
ただ、消費の個別化に対応したマーケティングといったとき、そこで想定される内容は、例えば、大量生産を行う消費財メーカー、独自カードを発行している百貨店、銀行などの金融サービス企業では、かなりの違いがある。そうしたなかで、個別対応の消費者向けマーケティングは、従来は流通業やサービス業を想定して語られることが多かった。
しかし、消費の個別化なる現象が進行しているとするならば、大量生産のメリットを享受している消費財メーカーも、その影響から逃れることはできない。
本稿では、こうした認識から、消費財メーカーのように、多数顧客を標的とするメーカーを主に念頭において、消費の個別化が進行するなかでのマーケティング戦略のあり方を検討する。
2.マーケティングと市場細分化
3.少衆、分衆の時代とその後
4.製品種類多様性とバリュー・フォー・マネー
5.製品ライン戦略の課題
6.市場細分化の戦略トライアングル
7.流通チャネルにおける戦略シンクロナイジング
8.むすび
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「小売業態の動態における真空地帯と流通技術革新」
『商学論究』、第52巻 第4号、関西学院大学商学研究会、(2005年3月)
1.はじめに
本稿は、小売業態の展開について、新たな説明枠組みを提示しようとするものである。
ここで、小売業態とは、小売店における小売ミックスのパターンである。したがって、典型的には、百貨店、食品スーパー、コンビニエンス・ストアなどが、小売業態とみなされる。
小売店は、各消費者の買い物起点(自宅や通勤・通学先など)からの距離という制約のなかで、より多くの消費者の愛顧を獲得すべく、小売ミックスにおいて競合店に対する差別的優位性を追求している。そして、この競争のなかで、小売ミックスのパターンとしての小売業態も進化し、成長し、あるいは衰退し、また新たな小売業態が生まれてくる。
このような時間の経過にともなう小売業態の変遷、つまり小売業態の展開をいかに説明するかは、小売研究における重要な理論テーマの一つであった。
また、実務的にも、小売業態の展開の解明は、きわめて大きな重要性を有する。
第一に、それは、小売業者にとっては、店舗の魅力と競争力、ひいては店舗の行く末にかかわるものである。第二に、小売業態のあり方は、そうした小売店を通して製品を流通させる製造業者や卸売業者にとっては、マーケティング・チャネルの動向を左右する。マーケティング・チャネルにいかに影響力を行使するかは、製造業者や卸売業者のマーケティングにおいて決定的な重要性を有するだけに、小売業態のあり方はかれらのマーケティングの成果をも規定する。
このような事情を反映して、小売業態の展開の説明は、理論的にも実務的にも、多くの関心を集めてきた。
その嚆矢となったのは、いうまでもなく、McNair (1958) による、「小売の輪の理論」である。この小売の輪の理論以来、小売業態展開の説明には、今日まで多くの理論的努力が投入されてきた。本稿の試みは、こうした一連の理論的努力のなかで、位置付けられる。
以下では、まず次節において、小売業態論の原点ともいうべき小売りの輪の理論とそれに関する論点を概観する。そのうえで、第3節で、小売業態の展開に関するその後の研究を展望して、本研究の立場を明確にし、第4節以降、われわれの説明枠組みを提示していく。
2.小売の輪の理論とその論点
3・小売業態動態論の展開
4.小売業態分析の基礎モデル:消費者選択モデル
5.格上げ・格下げと真空地帯の発生
6.業態展開への制約
7.理想型としての寡占均衡
8.流通技術革新によるフロンティアの突破
9.まとめ
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「医薬品メーカーの流通チャネル政策」
『医薬品流通論』 共著 片岡一郎・ 嶋口充輝・三村優美子編 東京大学出版会 (2003年3月)
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「消費社会の進展と日本型マーケティング」
『消費者行動研究のニュー・ディレクションズ』 2001.5 阿部周造編著 関西学院大学出版会 (2001年5月)
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「ネット・マーケティング戦略におけるカスタマイズと価格訴求」
『流通情報』、388号、流通経済研究所、(2001年10月)
1.はじめに
インターネットによる通信販売(以下ネット販売)の一つの大きな特徴は、それが消費者向けのものであっても、個々の顧客の固有名詞が把握されたうえで、購買履歴が蓄積されるということである。それゆえ、消費者向けネット販売に関するマーケティング戦略の一つの有力な方向は、購買履歴等顧客情報の蓄積とそれにもとづく個別対応によって、顧客の囲い込みを図っていくことであった。
しかし、ネット販売は同時に、顧客による買い回りがきわめて容易であるという特徴も併せもっている。したがって、顧客情報の蓄積にもとづく顧客の囲い込みが可能になるのも、ある程度購買関与度(消費者の価値体系における当該購買の重要性)が低い場合に限られるとみなければなるまい。
購買関与度が高くなれば、とりわけネット上では顧客の買い回りは活発化し、顧客の囲い込みは相対的には困難になるため、異なるタイプのマーケティング戦略が求められることになる。
本稿は、こうした認識のもと、相対的に購買関与度が高い購買を標的とした消費者向けネット販売に焦点を当て、そこで想定される消費者行動との対応のなかで、求められるマーケティング戦略を提示しようとするものである。
2.高関与購買と製品力の強化
3.カスタマイズと標準化
4.ネット販売と価格競争
5.購買関与度と製品判断力
6.ネット・マーケティング戦略の規定関係
7.ネット・マーケティング戦略の動態
8.まとめ
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「ネット販売における需給マッチングと顧客囲い込み」
『マーケティング・ジャーナル』、21巻2号、日本マーケティング協会、(2001年9月)
1.はじめに
1990年代後半になると、わが国においてもインターネットによる通信販売(以下ネット販売)に、注目が集まってきた。
ネット販売は、消費者にとってはパソコンから簡単に注文ができる便利な買い物方法である。
また、販売企業からみれば、家庭におけるパソコンが急増しているなか、パソコンから接続できるネットワーク上に通信販売用のカタログを掲載することにより、膨大な数の消費者への販売機会が生まれる。しかも、ネットワークへのカタログの掲載、製品の配送、代金の決済だけならば、流通コストも大幅に削減されるし、カタログには、画像・音声・映像などものせられる。さらに、だれでも容易にカタログの掲載ができるだけに、通信販売のみならず、流通機構全体にも大きな影響を与えかねない。
実際、わが国におけるネット販売の売上は、1995年に7億円であったものが、96年には285億円、97年には818億円、98年には1665億円、99年には3500億円、2000年には6233億円と急増し、 2005年には7兆9652億円に達するものと予測されている(『通信白書:平成13年版』)。
もちろん、わが国の小売市場全体に占めるネット販売の割合は、2000年ですら1%にも及ばず、まだまだ誤差の範囲でしかない。しかし、その成長は急激であり、ネット販売への新規参入も、後を絶たない。
本稿は、この消費者向けネット販売に焦点を当て、その標的となるわが国消費者の特性変化やそれにともなうマーケティングの進展を踏まえながら、ネット販売におけるマーケティング戦略の一つのあり方を提示しようとするものである。
2. オープン型マーケティングの展開
3.需給マッチングと顧客囲い込み
4.ネット販売における情報活用の経済性
5.ネット販売における顧客囲い込みの条件
6.まとめ
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「医療用医薬品メーカーの流通チャネル政策」
慶應義塾大学経営管理研究科リサーチ・ペーパー、(2000年5月)
1.はじめに
本稿の目的は、わが国における医療用医薬品を対象に、メーカーの流通チャネル政策の展開を振り返るとともに、今日の環境のなかで求められるチャネル政策の方向を提示することにある。
一般に、医薬品と呼ばれるもののなかには、街の薬局や薬店などで売られている一般用医薬品(大衆薬)と、医師の処方によって販売される医療用医薬品が含まれる。
歴史的には、1955年には48対52で、一般用が医療用を上回っていたが、1961年の国民皆保険の実現前後に、両者の比率は逆転し、その後は医療用医薬品の比率が増大していった。
確かに、今後は、政府の医療費抑制政策もあり、むしろ拡大が期待されるのは、一般用医薬品だという指摘もある。また、ドラッグストアの台頭やコンビニでの医薬品の取扱いなど、一般用医薬品の流通に関わる論点も多い。
ただ、本稿では、現状における重要性から、医療用医薬品に焦点を当て、それに関する流通チャネル政策を中心に検討を進めていく。
医療用医薬品の流通は、他の製品の流通と比べ、相当に特殊な世界だといわれてきた。これは、医療用医薬品という製品自体がきわめて専門的で、消費者は患者であるが、購買決定者は処方を行う医師であり、しかも支払いの大半は健康保険組合によって行われてきたという事情、そしてこれらゆえに政府の厳しい規制のもとにおかれてきたという事情によるものであろう。そのため、医療用医薬品の流通も、こうした特殊性を反映した形で展開してきた。しかし、医療用医薬品の特殊性にもかかわらず、近年におけるその流通の展開は、他の多くの製品の流通と共通している面も少なくない。
以下では、医療用医薬品の特殊性を踏まえながら、医療用医薬品におけるメーカーの流通チャネル政策の展開を振り返るとともに、今日の環境のなかで求められる流通チャネル政策の方向を検討していく。
具体的には、まず、次節と第3節は、医療用医薬品における流通チャネルの構造と取引慣行の概観に、充てられる。そのうえで、第4節と第5節では、医療用医薬品流通チャネルの構造と慣行を念頭におきながら、メーカーによる流通系列化の展開を跡付ける。さらに、第6節では、近年の卸売業者再編成の動きが、また、第7節では、卸売業者再編成に対応した流通チャネル政策の動きが、それぞれ検討される。そして、最後に、第8節において、以上の議論を踏まえたうえで、今日求められている流通チャネル政策の方向が提示される。
2.医薬品の流通チャネル構造
3.医薬品流通における取引慣行
4.医薬品流通における流通系列化
5.流通系列化の目的
6.卸売業者の再編成
7.流通チャネル政策の進展
8.医薬品におけるオープン型マーケティング
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「顧客囲い込みとデータマイニング」
『チェーンストアエイジ』、31巻5号、ダイヤモンド・フリードマン社、(2000年3月)
1990年代末から注目を浴びるようになった背景を明らかにするとともに、データ・マイニングを用いた顧客の囲い込みのあり方を提案。
1.データ・マイニングへの注目
2.顧客囲い込み
3.マッチング・ビジネスとしての流通業
4.顧客別推奨
5.トラフィック・ビルダーの識別
6.むすび
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CHANGING PATTERNS OF CHANNEL GOVERNANCE AN EXAMPLE FROM JAPAN
Journal of Retailing, Vol.75, No.2, (1999)
Ritu Lohtia
Assistant Professor
Department of Marketing, Georgia State University, Atlanta, GA
Kyoichi Ikeo
Professor of Marketing
Graduate School of Business Administration, Keio University, Yokohama, Japan
Ramesh Subramaniam
Vice President, Marketing and Business Development
Asia Pacific and Latin America, Mead Packaging, Atlanta, GA
THEORETICAL FRAMEWORK
CHANGES IN JAPANESE RETAIL STRUCTURE AND POWER
RESARCH METHODOLOGY
Research Strategy
Liberal Return Privileges
Dependence on Manufacturers for Merchandise Mix and Development
Manufacturers' Suggested Retail Prices
Vendor Supplied Promotional Aids
Sample
Apparel Industry
Sampling Frame
Key respondents
Questionnaire Development and Administration
Response Rate
Data Analysis
DISCUSSION
CONCLUSIONS
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インターネット通販と顧客囲い込み
『流通情報』、360号、流通経済研究所、(1999年6月)
1. インターネット通販の急成長
2. インターネット通販の成長商品分野
3. マッチング・ビジネスとしてのインターネット通販
4. インターネット通販における顧客囲い込み
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「消費社会の新展開とマーケティング」
『流通情報』、359号、流通経済研究所、(1999年5月)
1. 消費社会の新たな展開
2. アメリカ型生活様式の相対化
3. 生活様式の主体的展開
4. マーケティングと消費者の相互行為
5. むすび
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「マーケティング革新による市場創造:アスクル株式会社」
嶋口・竹内・片平・石井編、『顧客創造』、有斐閣(1998年12月)
1. はじめに
2. 会社の背景
2-1. プラス株式会社
2-2. 文具業界
2-3. 文具の流通
3. アスクル事業
3-1. 検討委員会
3-2. 標的顧客
3-3. パートナーシップ
3-4. 運営システム
3-5. 事業の立ち上げ
4. オープン化戦略の展開
4-1. 品揃えの拡大と価格訴求
4-2. 製販連携
4-3. 小売店の反発
4-4. アスクル・インターネット・カタログ
4-5. 1997年夏の状況
5. アスクルの革新
5-1. アスクルの流通チャネル革新
5-2. オープン化戦略によるマーケティング革新
5-3. アスクルの今
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「小売業態の発展」
田島義博・原田英生編、『ゼミナール流通入門』、日本経済新聞社(1997年6月)
1.小売業態と環境変化
2.総合量販店の業態革新
3.百貨店の低迷と再生への課題
4.コンビニエンス・ストアの革新と課題
5.小売業態発展の歴史
6.わが国における小売業態の展開
7.小売業態展開の理論
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